とうおうらいふ!
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「何で部室掃除……」
「しゃーないやろ。こんだけ部室汚なかったら監督も怒るわな」
足の踏み場がない程に物が散らばった部室を見て、全員が溜め息を吐いた。やはり男というものは整理整頓が苦手な訳で、洗濯物を溜め込むは部活に関係ないものを持ち込むはで、どれが誰のものかもわからない始末だ。
「まずこの床だな」
「いるもんといらないもん別けるとこからやな」
「こんなきったねーTシャツいるんスか…?」
それから30分近くかけて、ようやくいるものいらないものが別れた。いらないものは焼却処分。いるものは、どれが誰のかを見分ける作業だ。自分用ロッカーが在る者に関しては、各自ロッカーの片付けを開始した。
分別組の1年生は、今のOBが残していったものや先輩の私物を見て盛り上がっている。
「これ中学生特集のバスケ雑誌じゃん!去年のだけど」
「貫禄あんなぁ。女バスもあるぜ」
「こら1年、雑誌なんか読んでる暇ないで」
「あっす、すみません!」
「あれ?これ、この前若松とゲームした人じゃね?」
ほらコレ、
部員の1人が、若松にそれを見せた。
「藍月雅……帝光中女子バスケ部主将!?」
「なるほどな」
「そら強い訳やなぁ。帝光中は強豪中の強豪や。それだけ実力があるっちゅーことやもんな」
「マジかよアイツ…!」
若松はページをめくったり戻したりして、どの写真も彼女であることを確かめているようだ。
“帝光中女子バスケ部主将 藍月雅
背番号4番 ポジション PG”
「攻めるPG、か」
「先読みのプロ……相当すげーんだな、アイツ」
「帝光中女子バスケ部主将のみならず、男子バス部と女子バスケ部のどちらもまとめる総主将…。何だよアイツ……超ハイスペックじゃねーかよ…!」
キセキの世代が世間を騒がし、女子バスケがどんなに凄くてもその影に隠れてしまう。男子バスケの方が覇気があるからだ。
雑誌に載っても、“女子バスケは覇気がない”と、そのページは開かれないのだろう。
しかし、雅は目立ちたい等と思っていない。それを裏付ける言葉が、その雑誌の最後に載っていた。
─私にできることは、バスケを楽しむことだけです─
「……けど、何でアイツ、バスケやんねぇんだ…?こんだけバスケ好きなら、普通バスケ入んだろ…」
「桐皇にも女子バスケはあるのに、」
「今の藍月さんには、バスケを続けられる程の体力が無いんですよ」
「かっかかかかか監督!!?」
「はい、監督です」
「いつからいはったんですか?」
「ついさっきです。掃除が進んでるか見に来たら、貴方達が雑誌を見ていたので」
若松が落とした雑誌を拾い上げ、原澤はページを捲った。
「これは私の私物でしてね、」
「監督の私物?…つか、バスケ続ける程体力ないって…」
「彼女は元々体が弱いんですよ。試合中も度々酸素吸入しているのを見かけてます」
「そないな状態で3年間バスケ続けたっちゅーことですか?」
「それだけバスケが大好きなんですよ。だから、是非とも我が男子バスケ部のアシスタントコーチにとお誘いしているのですが、中々OKを貰えないんですよねぇ」
困ったものです。
原澤は髪を弄りながらため息をついた。
「けど、帝光の主将だったからって、コーチできるんすか?マネージャーならともかく」
「ああ、皆さんは知りませんでしたね。彼女の家族は皆医者なんですよ。彼女の持つ医学的知識を活用したからこそ、帝光の女子バスケ部はキセキの世代の影になりながらも有名になりました」
「ま、まじっすか……俺もうアイツのこと馬鹿にできねぇ」
「勉強でも部活でも頭上がらんなぁ」
部室内が笑い声に包まれた。
この時の原澤の企みなど、誰も知らなかった。