きりさきらいふ!

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「いらっしゃ、……康次郎、元気ないよ。どうしたの?」

「そうか?いつも通りだが」



いつも通りには見えないよ。

そう明るく笑って言う雅は、俺にティーカップを差し出した。



「温かいのを飲むと安心するよ」

「すまない」

「?」

「まさか雅に悟られるとは思っていなかった。そんなに解りやすかったか?」

「なんとなくそう思っただけ。悩みがあるなら聴くよ?」



真向かいに座る雅が心配そうな顔で俺を見つめた。

そんな顔をさせたいわけではないのに。

お前が俺を心配してくれて、周りからわかりにくいと評判の無表情を読み取ってくれたのがとても嬉しかった。



「……雅、」

「ん?」

「“鬼”を知っているか?」

「あー、あの町1つ軽く消せちゃうってのでしょ?」

「ああ」



やはり、知らない人間はいないか。
今、目の前にいるこの俺が、鬼だと知ったら雅はどんな反応をするのだろう。

恐怖で顔を歪めるか、命だけは助けてくれと泣いて懇願するか。



「怖い、だろう」

「そうかな」

「え、」

「私は実際見たことないし、人も鬼も対して変わらないよ。人のほうが鬼より醜いかもしれないしね」

「……」



そう言う雅の表情は、とても儚げで、悲しそうだった。

いったい何が、お前にそんな顔をさせるんだ。全て俺に話してくれ。俺が必ずお前を支えるから。


俺は無意識のうちに、雅の手に自分のを重ねていた。



「す、すまない」

「ううん。いいの。康次郎の手、冷たいね。冷え性?」

「ッ……あ、ああ…」



そうだ。俺の手は冷たい。

それは冷え性などてはなく、鬼だから。

手を引っ込めた俺に不思議そうな顔をして、すぐに思い出したように立ち上がって厨房へと入っていった。そしてすぐに戻ってきた彼女の手にあったのは、まだ見たことのないケーキだった。恐らく試作品だろう。



「これ、食べてみて」

「これは、」

「生姜入りケーキ。って言っても、生姜の味はほとんどしないの。けど、体は温まるよ」

「ありがとう」



やはり、 彼女の作るものは全て美味しい。

このケーキも、いつ店頭に並んでも恥ずかしくない味だ。



「美味しいよ」

「良かった」



ああ、なんて愛らしい笑顔。

……いや、ダメだ。抑えろ。油断したら、彼女のあの白く艶かしい首筋に歯を立ててしまうかもしれない。

最近、その衝動が激しいから、気を付けなくては。



「ここに来ると、元気になるよ。ありがとう」

「私も、康次郎が来てくれるとすごく元気になるよ!」

「明日も来ていいか」

「もちろん!」



毎日来るよ。

どんなに吸血衝動が大きくなっても、耐えてみせる。お前の笑顔を守るためなら、例え鬼としての本能を否定してでも、自分を抑えてみせるからな。
 

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