仙道 後半戦
□conte 44
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「こんなゆっくりした時間過ごせるなんて信じられないな」
「いえ、めまぐるしいです……」
このままではまた襲われかねないと思うも起き上がれない。今日はお互い何の予定もない。そんなこと、今まであったかなかったか……。
「彰、もっと寝てていいんだよ? 疲れてるでしょ?」
「ん〜、もったいねえような」
「貧乏性だなあ。ま、いつもお互い時間に追われてたからね」
これから玲は推薦の準備とはいえ、今までに比べたら時間的には余裕さえある。
仙道はどうするのだろう。3年になってからは忙しすぎて、そんな話はまったく出来てない。玲の考えを察してか、仙道が口をひらいた。
「オレさ……ウィンターカップは出ない。国体はもう組み込まれちまってるらしいから、公式戦はそれを最後にしようかと思ってんだ」
「…どうして……?」
いきなり予想外の話にビックリした。まだお互いの肌が密着してる状態。仙道は玲の頭は撫でながら続けた。
「いつまでもオレが残ってたら、次が育たない。だから練習には参加するよ? 後輩を鍛えないと」
「そのあとは……どうするの?」
思わず口から出た言葉だが、今いちばん聞きたい。だが、ナーバスな話題。去年の夏のバスケ雑誌の記事が頭をよぎる。
“山王工業・沢北、IH後に渡米予定”
「今回のIHと前後して、いろいろ話もらってるけど、そのひとつにF体大があってさ」
インカレ不動のトップ。去年は海南の牧が進学したことで覚えている。
「そこで揉まれようかと思ってるんだ。だから、昨日、実家に寄ってきた」
福岡帰りに、そのまま東京まで行ったのは、そういうわけだったんだ。
ご両親はなんて?と聞くと、自分を信じて自分で決めろと言われたらしい。F体大は東京だし、まあ、何も反対される理由もないしなと。
「そう……なんだ」
「何の相談もなしにごめんな」
「いや、彰が決めることだし、遠くに行くわけじゃないし」
「何?俺が遠くに行くかもって思ってたのか?」
ありえない話ではないとは思っていた。そんな不安が顔に出てしまっていたのだろう、仙道がギュッと抱きしめて、「玲のそばにいるよ」と言ってくれた。
「玲こそ、試験いつ?」
「11月。面接と論文があるから、それなりにやらないと」
今回のIH出場で学内での枠はほぼ決定なので、よほどの失敗をしない限り大丈夫と言われている。だが特殊な学科なので、それ専用の準備が必要だ。
「ま、テニスに比べれば、楽なもんだけどね」
「そっか、玲は引退したんだっけ。テニスは? やらねーの?」
「うん、まあ、私はIH出場できただけで奇跡みたいなもんだったし。肘もあまりよくないし、今後は趣味レベルかな」
「もう玲のスコート姿、見れねえの?」
「そこ重要……?」