あれから5年後

□conte 01
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いったい何の電話だったのか。どうやら仙道のことを知らせてくれたらしい。

自分は今、雑誌の仕事も続けつつ、フリーランスでライターをしている。
少々のテニス歴や藤真とのア〇ックスの仕事のせいか、スポーツ選手やそれがらみの世界の取材や原稿の依頼がくることも少なくない。
その先々でふいに耳にするより、心の準備でもさせてくれようとしたのだろうか。

でも、その準備は必要ないと思う。
あれから5年もたっている。
2年前、NBA入りの際に仙道の名と顔がいろいろなメディアに一斉に出た際も、冷静に見ることができた。一種の懐かしささえ感じた。

そして、それよりも何よりも、彼の活躍が嬉しい。そのために行ったのだから。そのためにあの別れを決意したのだから。

報われたのかもしれない。少し図々しいが、そう思うことにしておこう。苦笑しながら携帯をしまおうとしたら、もう一件かかってきた。

『奥田』

さきほど藤真が言っていた広告マン。
今付き合っている3歳年上の彼。

「玲? もう家?」
「そう、さっき帰ったよ」
「そうか。悪いけど、仕事終わりそうにないからさ、今日は行けないよ。ごめんな」

彼は忙しい人だ。広告代理店のスポーツマーケティング部門にいるので、1年近く前に仕事関係の打ち上げの場で出会った。
彼もずっとテニスをしていたそうで、話が合い、自然と恋人関係に発展した。
頼りになり、優しい。自分もすぐに惹かれ、付き合って半年ほどたつだろうか。

そう、だから仙道の帰国話にも動じることはない。再会することがあったとしても、今の成功を喜ぶことしか自分にはない。それでいい。

越野たちも知ってるだろうか。
いや、きっと仙道から連絡いってるだろうからいいか、などと思い巡らしていると、ふと、湘南の海が懐かしくなった。潮の香りが恋しい。

どうせ奥田は明日も仕事だろうし……久しぶりに実家に行くことを考え始めた。
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