あれから5年後

□conte 23
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自分は何でこんなところにいるんだろう……。頭は傷のわりに出血が多い。大げさにしたくなかったが、青ざめていくのを見かねて連れてこられた。
ぼんやりと天井を見上げていると、しばらくして藤真が戻ってきた。

「健司、ごめん」
「良かったな、オレが練習午後からで」

健司にしか言えなくてと玲は苦笑いした。だがその声の調子には力がない。
すべてはたぶん藤真の思い描いた通りであっている。いつもならそのことを突いてきそうなのに、今日は何も言ってこない。有難かった。

だが、自分の仕事や病院の事務的なことへの対応を頼んでいると、藤真が「あ、仙道迎えに来るから」と何でもなさそうに言うではないか。

「!? 何で呼んだの!」

こんなこと知られたくない。こんな時に会えない。

「来なくていいって言って!」
「なんで? まだ仙道に応えられないから? まだちゃんと別れてないから?」

そこまでわかってるならどうして……という玲の声は小さくかき消えた。

「ああ、わからねーな。だいたいオレの一存で呼んだと思うか? 違えよ。奥田さんが仙道を呼んであげてくれって。おまえがうわ言で名前呼んでたって」


奥田が呼んだ……
いや、自分が呼んでいた……?


「仙道になんて言ったらいいかわからない……」
「何も言わなくていいんだよ」
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