あれから5年後
□conte 24
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マンションについてからはドアの前まで来てくれた。
「お姉さんに連絡する?」
「それはちょっと。今、妊娠中なの」
「へえ、そうなんだ。それはおめでとうだな。だから藤真さん呼んだのか」
「まあ……ね。まだ初期でつわりがひどいらしくて」
これは言い訳だ。
あの時とっさに藤真が思い浮かんだ。
「玲だってまだ顔色悪いからちゃんと横になれよ」
「ありがとう。ごめんね、迷惑かけて」
迷惑なんて思ってねえよと仙道は玲の後頭部をそっと撫でた。
手を洗い顔をあげると、頭に包帯を巻かれた自分が鏡に映った。大袈裟だな──
髪で隠れるから仕事にはさしつかなさそうだとホッとするも、この先のことを考えると気が重い。結局、別れ話は頓挫したまま。
ベッドに横たわると、昨夜のことが思い出された。こんな頭でも、記憶は鮮明に残っている。頭の傷のそれより、鈍い痛みが胸を浸してくる。気持ちに正直になりたいと決めたときから、避けられないことだった。