三井長編

□conte 02
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太陽が出ているとはいえ2月。外に出るとひどく冷たい風が吹いており、それから身を守るように紫帆は肩をすぼめた。

いちど高校に戻るという三井を、送らせてくださいと申し出た。入口に車を寄せると、三井が手伝って桜輔を後ろに乗せてくれる。膝を曲げられないので、後ろ向きにお尻から座って座席に足を投げ出した。
「こっち座らせてもらうな」と、助手席のドアを三井は開けた。


「中林のおねーさんは高校どこだったんだ? 同い年なんだろ?」
「私は女子高でした。湘南白蘭学園」
「へえ、お嬢だな」
「オレの姉貴がお嬢なわけねえじゃないですか。すげーんすよ、いつもは」

うっさい桜輔! と言うと、ほら、と笑っている。ケガしたことにショックを受けていると思ったから、そんな様子に少し安堵した。だが、男子高校生。すぐに調子にのるから困る。

「2,3か月前に彼氏と別れたときも荒れてね、大変だったんすから。 ま、だから土曜に暇して家にいて、こうして迎えに来てもらえたんすけど」
「……突き落とすよ? 再起不能にしてやる」
「おいおい、オレの『湘南白蘭』へのイメージを壊さねーでくれよ」と三井はニヤリと口元に微笑を浮かべた。

さっきまで笑うような気分ではなかった。膝を痛める……自分と重なった。そのあと自暴自棄になったのは自分の弱さのせいだとわかっているが、まだ10代後半の少年── 一番成長途上の時期に焦るなと言っても難しい。今はケガを受け止めるので精一杯だろう。問題はこれからだ。
運転する姉と後ろの弟はギャーギャー言い合っている。そうすることでお互いストレス発散をしているようだ。

「ちょ、今のとこ右折だろ?」
「あ、しまった。ちょっと、桜輔のせいで気が散るっ!」
「何でもいいけど安全運転で頼むよ。ケガどころか、まだ死にたくねえからな」
「あ、三井さんまでひどくないですか? 元湘南白蘭をナメてますね!?」

運転するとき人格変わるタイプか? それとも『湘南白蘭』とは女子高の名前でなく、チーム名か何かか? とチラッと三井は隣を見た。

若干の回り道をして、湘北に着いた。

「じゃ、皆にはオレが話しておくから」
「何から何まですみません。ありがとうございました」
「あ、中林……骨折は治るから、ぜってー無理すんなよ!」

紫帆は車を降りて、三井に頭を下げた。ボランティアでコーチをやってるようなものだろうに、こうして付き添ってくれて本当に有難かった。

「まあ、弟の様子、よくみてやって」
「はい。生意気で無礼な弟ですけど」
「いいコンビだったぜ?」とからかうように軽く笑い、歩きだした。

(そういえば、昔、生意気で無礼で無口な後輩がいたなー)

少しして背後から車が走り出す音が聞こえる。ひとりになると三井は大きな溜息をついた。久しぶりにあの病院へ行ったからだろうか、どうにも感傷的な気分になる。

それに……

早くバスケが出来るようにしてあげてください── その響きがまだ耳に残っていた。
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