三井長編

□conte 05
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「高校生相手はキツい?」
「ああ、サラリーマンには辛いな」
「明日は月曜ですよ?」
「ヤなこと言うなよ」と三井は笑った。

「ところでどうした?」と聞くから、時々は迎えに来るし、桜輔が何してるのかと思ってと答えると、やっぱ姉貴なんだなと言われた。

「姉弟でギャーギャーやりあってても、何だかんだ言って心配してんだろ?」
「ギャーギャーは余計ですっ!」
「弟のこっそりチューも見抜けるし、すげえよな」
「ああ、あのわかりやすさ、笑っちゃうよね。あれで隠してるつもりなんだからかわいいもんでしょ? だからエロ本もすぐバレてたと思うよ、三井さん?」
「おまえ、あん時どこから話し聞いてやがったんだ……」


あれ、姉貴? と杖をついた桜輔がやってきた。今の体育館の熱気にそぐわないその姿が紫帆の目にうつる。だが桜輔からは、早く治してバスケがしたいという気勢が見てとれ、そこには何の周囲との不一致もなかった。
ほとんど出来ることもないのに行ってどうするんだろうと思っていたが、感覚が鈍らないようにとの意味がわかるような気がした。


「姉貴、何で来たの?」
「かわいい弟を迎えに来たんだってよ」と言いながら、三井は立ち上がった。

真冬だというのに、動き回っていた三井は半袖。がっしりした肩から伸びるその筋肉のはった腕で、さきほどは美しいシュートを繰り出していた。あれはちょっと印象的だったなと紫帆は思う。

「体冷やさないようにね、明日からまた仕事なんだから」

振り向いた三井は、それ言うなってと嫌そうな顔をしていた。

「そうだ。来週日曜、オレ行けねーんだ」
「あ、了解。もちろんこっちで桜輔のことはやるから。ありがとう」
「三井さん、練習自体来れねーんすか?」
「ちょっとな。でも宮城と桜木が来るっつってたぞ?」



車の中で桜輔に聞くと、そのふたりも三井たちが全国に行ったときのメンバーだという。

「あとで姉貴に山王戦のビデオ見せてやるよ」

興奮気味に桜輔は語っていたけれど、そのことは家に帰ったらお互い忘れてしまっていた。
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