三井長編

□conte 07
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今日は午後からバレー部が練習試合ということで、午前練だけで切りあがった。
中林家の前には軽トラが停まっており、その後ろにつけると、ちょうど紫帆がお昼のお茶を出したところらしく庭にいた。

「あれ、今日は早いんだ。もしかして昼ご飯まだ……?」
「三井さんとラーメン食ってきた」

奢ってもらっちゃったんだろうなと紫帆はぼんやり思う。この弟は、小さいときから両親の他に自分もいて、周りに世話されることに慣れているせいか甘え上手だ。というか、そういう人からの好意を素直に受け入れられる。変な遠慮がない分、こちらもまた抵抗なくやってあげようといういい循環を生み出す。

(得な性格だよなぁ……ちゃんと感謝しなさいよね)


感謝で思い出した。ちょっと待っててといい、急いで取りに戻り、桜輔にきれいにラッピングされた包みを三井に渡させた。

「オレに?」

明らかにネクタイとわかるその品に三井はパチパチと瞬きした。

「母から三井さんに」
「いいのか?」
「実家が服飾系の会社をやってて、そこのだから遠慮せずもらって」
「へぇー。 お母さんにお礼言っといて。かえって気を遣わせちまって悪ぃな」
「鎌倉と元町に店があるからどうぞご贔屓にって」
「おう」

照れながら、今度はもっといいモン食わせてやるよという三井に、この人は兄弟がいるのだろうかなどと紫帆は思い巡らせていた。

また明日な、と運転席のドアに手をかけた三井は、この家の庭に人影が動くのを見た。そういえば手入れをしてもらっていると言っていたな……

『オヤジ、ちょっと取ってくる』

はっきりと耳に届いたその低い聞き覚えのある声。聞いてはいけないものを聞いてしまった。三井は息が詰まるほど驚いた。
そして、見てはいけないものを見てしまった。なぜもっと早く気付かなかったのだろう。

前方に停まる軽トラには『堀田造園』との文字があった。
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