三井長編

□conte 10
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三井は汗を拭きながら、隣に座る宮城に話しかけた。

「なあ、今まで中林もっと声だしてたよな。なんか最近大人しくねえか?」
「そうっすか?」
「なんかよ、ボーっと一点見つめちゃってるときがあるっつうか」

宮城は三井をチラリと見ると眉だけわずかに動かし、もういちど「そうっすかね」と言った。

なんだかんだ三井とは長い付き合いになる。自分は時々しか来れないから桜輔のその違いを感じないのか、三井が敏感なのか、それともいつか紫帆に言ったように彼自身と桜輔を重ねて見ているからわかるのか。
もし最後が正解だとしたら、三井の杞憂は取り越し苦労ではなく大事なことなのかもしれない。

(それであの人、道はずしちゃったんだしなー)

「さあ、オレはよくわかんねえけど……あの察しのいいおねーサンに聞いたらどうっすか?」
「察しのいい?」
「ちょっとしゃべった時にそー思っただけ」
「あー、言ってる意味わかんなくもねえな。でも意外とどんくさいとこもあるぞ?」

三井は昨夜電車内で紫帆が顔から自分に突っ込んできたことを思い出して、その口元にニヤッと笑みを浮かべた。


「なにそれ、三井サン、すんげえヤラシー笑い」
「は!? 何がだ!」

タオルで殴ってこようとする三井から逃げるように立ち上がると、開け放たれた扉から車が一台入ってくるのが見えた。その車に見覚えがある。

噂をすれば……と宮城はおもしろいことになってきたと思った。
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