三井長編
□conte 14
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「少し時間を置いたらどうかな」
「手遅れって言葉を知らねーのか? 時間がたてばたつだけ、戻りづらくなんだよ。今ならまだ間に合う」
三井はひと呼吸置いた。
「どうして中林が行かなくなったかわかるか?」
紫帆は小さく首をふった。松葉杖をついていたころは、ただ見ているだけしかできず拷問のようだと思った。そのころなら行きたくない理由がわかる。けれど最近はシュート練習などをしていたはず。
皆と混じって動けなくとも、少しでもバスケが出来て嬉しいのではないか。なのになぜ……わからない。
「仲間がどんどんうまくなって、自分が置いていかれるような気がして怖くなっちまうんだよ。自分は必要ねえんじゃねーかって。もう自分の居場所はねえって思っちまうんだよ……」
そう言う三井の切実な声に流されるように、紫帆は思わず聞いてしまった。
「……三井さんも…そう思ったの?」
ハッとしたように、頬杖ついていた手から顎が少しはずされた。そのまま首の後ろに手をあて、考えこむような仕草をしてから、三井は一度ゆっくり紫帆を見た。
その目には躊躇とともに、その問いに答えるべきかを推しはかっているかのような含みがあり、紫帆は怖気づいた。おまえには関係ないと切り捨てられてしまうことに──
「ご、ごめん、余計なこと聞いて。それはいいから」
急いで取り繕うようにそう言うと、出来る限り何でもない表情を浮かべた。
しかし三井は視線を逸らさない。手のひらがうっすらと汗ばんでいるのを感じながら、三井は大きく深呼吸した。
「いや…聞けよ……」
そういった言葉には、迷いは消え、むしろホッとしているような、そんなにおいがあった。