三井長編 続編・番外編

□suite 09
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「なんだ、ホント心配することなんかねーじゃん。三井サン、愛されてるね」なんて宮城はヤジを入れてきたけれど、「また来るかも知れねえっすね」とポツリと落された一言に、沈みかけた秋の日のように気分が陰る。

紫帆の拒絶は嬉しかったが、その憂心は完全には消えない。
プロポーズをされるほどの間柄だったわけで。
その元カレを目の前にしたら、記憶とともに想いが引き戻されるのではないか。会わないでいてくれてホッとすると同時に、そんな鈍い不安も胸の奥底にわだかまっていく。


横浜の自分の家に着いた三井は、バスルームに向かった。服を脱ぎながら、正面の鏡をぼんやりと見つめる。毎日見ている自分の顔だから、何かこれといった違いがあるわけではない。それでも確かに18の頃と比べれば、変わったと言わないわけにはいかない。

そして、ふと、先日ここで紫帆と抱き合ったことを思い出す。あの日に初めて元カレの存在を意識した。あれは紫帆からの誘いであったけれど、ベッドにいかずそのままここで。消された明かりをまた点けてまで鏡の前で抱いたのは──

紫帆が望んだのは誰か。求めたのは誰か。誰によってこんなに乱され感じているのかを見せつけたかったのかもしれない。確認させたかったのかもしれない。

ガキじゃねえんだから……
いや、学生のころなら、もっと素直にストレートに相手に聞けた。不機嫌さを隠そうともせず、問い詰めてしまっていただろう。

熱いシャワーを頭から浴びれば、今でも思い通りに的確に動くように鍛え上げられた肉体の上を細い水流が幾重にもつたう。取り留めのない胸の内をも流してしまえたら、とそんな殊勝で神妙な考えをする自分に釈然としない。

わだかまりを残すと、後々まで引きずるタイプだということはわかっていた。ここでハッキリさせないと。

紫帆が「会わない」と言ったその言葉が信ずるべきものであることがわかった今、紫帆自身を信じるべきだと三井は思った。
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