三井長編 続編・番外編
□suite 11
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「……つい考えちまうんだよ……仙道と彼女みてーにまた…って。おまえもそいつにいざ会ったら、気持ちが傾くんじゃねえかって」
だんだん三井の声は小さくなる。さらけ出した言葉は何とも心許ない心地にさせる。
あなたしか考えられないと紫帆は言いきってくれているのに、まだ女々しい事を考える自分。そんな狭量な自分が情けないくらいだ。
でも紫帆はきっとそのまま受け入れてくれる。そう信じていなければ、こんなこと口に出さない。
「仙道さんの彼女はさ……きっと、仙道さんのために、仙道さんを選んだからこそ別れたんだと思う。けど、私は……彼を選ばなかったから別れたわけで。そこが大きく違う。だから、結果も違うよ?」
三井の腕の力がフッと緩んだ。体から余計な力が抜けた、そんな感覚だった。
確認するように紫帆が斜め上を見上げると、三井の手が自分の手を包みこむのを感じるとともに、視線が絡み、そしてゆっくりと顔が近づいてくる。
ぼんやりと三井の唇を見つめていると、やがてそれは自分の唇と重なり、それと同時に紫帆は目を閉じた。
優しく何度も何度も繰り返され、その度に三井に吸い込まれそうな気持ちになった。
かわいい、甘えられたいなんて思っている自分が、こんなに三井に甘えている。彼を拠りどころとしている。
腕の中で向きを変えさせられ、今度は正面から覆い被さるように唇を落とされ、再び抱き締められた。
透き通った月の光はためらいながら── 互いに心音を重ねるふたりを静かに照らしだしていた。
気の重いことは、早めに済ますに限る。紫帆は自らメールした。先週末の拒絶から一転、向こうはきっとわけがわからないだろう。とにかくいちど会う約束をした。
「金曜にならないと時間とれないってことだから、寿のとこに行く前に会ってくる……ね」
三井の「わかった」と答える声にも迷いはなく、穏やかなものだった。