藤真長編
□conte 07
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「おふたりさん、何イチャついてんだよ」
矢野がニヤニヤしながらボールを片手にやってきた。
「それともアレ、マジなの?」
「アレ?」
「藤真と茉莉子が付き合ってるって」
矢野が午前に出たバレーボールの授業のときに、高等部出身の同級生に聞かれたらしい。ふたりが仲良さそうに駅で一緒に降りていったのを見たヤツがいるとか。
「あの時か。それだけで噂されてんの? スゲーな」
「ちゃんと否定したんでしょうね?」
「へえ〜っつっといた」
期待はしていなかったとはいえ、まったく当てにならない。夏休み中で良かった。それに大学なんて広くて、人が多くて、そんな噂は一握りの周囲だけでのこと。だからあまり気に留めなかった。だが、そういう情報には知らぬ間に尾ひれがついていくものだ──
「明日から本格的に休みだろ? 何すんの?」などと立ち話を続けていると、通りかかったバスケ部のメンバーが声をかけてきた。
「来週末、練習試合入るってよ」
「おう、どこと?」
「F体大だってさ。気合い入れねーとな」
そう答えたメンバーに向ける藤真の視線に、今、一瞬だが、これまでとは違う何かを茉莉子は見た気がした。そして先日の矢野の話が思い起こされる。藤真が高校時代、いちども勝てなかった相手がいるというF体大。
「ね、その試合、見にいってもいいかな?」
茉莉子は短くためらいを見せながら、思い切ったように口を開いた。何からくる好奇心かわからなかったが、見てみたいと思った。
「久々にバスケしたら、ちょっと興味がわいてきたって言うか……」
「ああ、もちろん。ギャラリー大歓迎」
矢野はニヤリと笑いながら、軽くシュートを打った。そしてネットをくぐり落ちてきたボールを片手で藤真が受け、手首のスナップをきかせ放つと、それはまたゴールに吸い込まれるように入った。