三井長編 続編・番外編
□Dans le jardin(前)
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三井が駅まで行っている間に紫帆が炭に火をつけ準備しておいた。自宅にこんなバーベキュースペースがあるのだから、その辺りはお手のもの。
木製のイスに座って風に吹かれれば、気分は盛り上がってくる。大人の乾杯は藤真の“お持たせ”の高そうなシャンパンで。
「オレもちょっとくらい……」という桜輔に、紫帆はピシャリと釘を刺した。
「未成年、夜も勉強するんでしょ!」
「ちっ、主役はオレじゃねえのかよ……じゃ、肉! 肉食いてえ!」
仕方がない。今日は焼き係りに徹しましょうと紫帆は炉の近くを陣取り、あらかじめオリーブオイルとローズマリーで下味をつけ串刺ししておいた肉と野菜を焼き始めた。
その間、男性陣はバスケ話で盛り上がる。
弟くんのシュートは三井直伝なんだろ?から始まり、今年の神奈川予選のこと、さかのぼって自分たちの高校時代のこと。
「ま、三井はアレだけどな、2年のブランク? 知ってんだろ?」
湘北バスケ部七不思議のひとつじゃね? などと藤真が言い出す。
だが、次の仙道の言葉は、こいつらオレをからかうために来たのか?との三井の予想を裏切って、意外な方向から投げかけられた。
「でもその経験があったから、桜輔くんの力になれたんじゃないんですか?」
「仙道、いいこと言うじゃねえか」
とはいえ、感動している場合ではない。桜輔の無邪気な発言はこちらも三井の想像を超え、信じられない方向へと導くことになる……
「あ、この庭の手入れしてくれたのって、三井さんのヤンキー時代の仲間なんすよ? このバーベキュー炉も作り直してもらって」
「へえ、偶然だな」と仙道は庭を見渡した。
「すげえいい人なんすよ。ずっと三井さんのことも応援してて……」
それを聞いた藤真が反応した。
「もしかして、『三井寿応援団』? あのリーゼントか?」
「あ、知ってました? やっぱ有名なんすねー」
「『炎の男』てやつですね?」と今度は仙道までノッてくる始末。
紫帆に聞かれまいかと三井が振り向くと、ちょうど食材を取りに家の中に行っているようで姿が見えなかった。すごい勢いでビールと肉が消費されるので、落ち着いて座っていられないのだ。
「あの堀田さんが振り回してた旗、『炎の男』って描いてあったんすね? DVDだと読み取れなくて、何の男だろうなって皆で言ってて、アハハハハ」
「ばかやろ、あいつらに言うんじゃねーぞ!
紫帆にもぜってー言うな!」
それでも、ぷぷっ、炎の男!と桜輔が笑い転げていると、「え、炎? 焦げちゃうじゃん、見ててよー」と紫帆が戻ってきた。
その手には岩ガキと赤ワイン。生で食べるのなら白だが、炙ってバターや味噌をとかしたものには赤が合う。
「お、いいねえ。オレ、カキ好き。オープナーある?」と藤真が率先して手を差し伸べた。
「ワイン開けるから、三井、グラスとって。桜輔くん、『炎』よろしくな」