藤真長編
□conte 15
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学食内は多くの学生でごったがえしていた。促されるままについていくと、藤真は矢野の前の席に荷物を置き、隣のイスをひいてここに座れと言わんばかり。茉莉子は流されるままに素直に従った。
「おう、なんで一緒?」
「2限が同じ講義だった」
「それにしてはおせーな?」
「そうか? あ、この時間のほうが並ばずに買えていいじゃん。オレ、Aランチにしよ」
そう言って、藤真は行ってしまい、残された茉莉子は矢野の探るような視線から逃げるように自分もお昼を買いに離れた。途中、友人たちに遅くなったから矢野たちと食べて後から行く、と伝えた。
矢野たちと……嘘は言っていない。わかりやすく言ったつもりだ。
トレイを手に席に戻れば、矢野が藤真を質問攻めにしている。
「だから、オレは寝てたから全然聞いてなかったっつーの。茉莉子に聞けよ」
茉莉子が座ると同時に、藤真は箸をあげた。待っていてくれたのだろうか。
「な、合コンのとき、男はどこ座るのが有効なわけ?」と矢野が今度は茉莉子に食いついてきた。
「は?」
さきほどの心理学の話らしい。
「一番遠くに座って興味ないフリしてると、逆に気になっちゃうみたいよ」とデタラメを吹き込めば、隣で藤真が一生懸命笑いをこらえているのがわかった。
「ほら、茉莉子、早く食わねーと。ま、最初はいっか。矢野、頼むよ、席とっといて」
「えー、オレだけ行くのかよー」
「ほら、もう時間だぜ? 食ったらいくからさ、よろしく」
周囲もザワザワと移動を始めている。13時になろうとしていた。
矢野が立ったあとの空席にふと目をとめて、藤真は思った。あの『パーソナルスペース』とやら、なかなか侮れない―――
初めて茉莉子に会ったとき、彼女は正面に座った。そのとき、誰?と言わんばかりの探るような視線を投げかけた記憶がある。自分のテリトリーの中に侵入してきたからなのだろう。
フッと笑みをこぼすと、「思い出し笑い?」と横から優しい声がかかった。
「ちょっとな」
「やらしいー」
「いいから食えよ」
「どうせ遅れるんだからもういいでしょ」
そして今、隣にいる彼女から得られるものは安心感。それはテリトリーと関係あるのか、ないのか……
自身のコントロールを徹底してきたはずの藤真に、説明しがたい戸惑いが生じてくる。そしてそれ以上に藤真は自分の気持ちを持て余していた。