藤真長編
□conte 16
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日曜、最後は三井のいるY大。三井も途中出場し、外からの攻撃のリズムを作る。しっかりと3Pを決めてきたが、最終的にはA学が勝利した。
藤真が相手チームのメンバーと言葉を交わしているのがギャラリーの茉莉子からも見えた。きっと例の宿敵のひとりなのだろう。だがリーグ戦最後の試合後の彼らはリラックスした会話を繰り広げていた。
「藤真、そろそろあのDVD返せよ」
「あ、ワリィ。明日、ランニングがてら持ってく」
「あんま朝早く来んなよな」
その話が耳に入った矢野が「どーゆー系?」と藤真を小突けば、「バカヤロ、試合の録画だ。あっちじゃねえ」と呆れた視線を送られた。
だが、実際、藤真が三井の家に寄れば「今度はこっち持ってくか?」と別のDVDを差し出された。
『現役女子大生 家庭教師の誘惑』
「無理矢理系じゃねーし、女の子もいかにもって感じじゃなくてよ、わりとリアル。たまにはこーいうのもいいぜ?」
「いや、いい……」
「なんだよ、牧んとこに負けたのまだ引きずってんのか? 昨日は随分と快調だったくせに」
「…リアル過ぎんだよ……」
「は?」
「何でもねえ。オレ、もうちょっと先まで走ってくから」
三井の家は距離的には近いのだが、最寄り駅の路線は違う。今日はその先まで足を延ばしてみるつもりだった。出掛けるという三井と一緒に部屋を出た。
秋の気配を運ぶ冷たい朝の風が頬に快い。そのまま少しばかり三井とともに歩いていると、ふと角の大きな家の看板が目に入った。
「なあ……おまえここ行ったことある?」
「あ? 何だよ突然。どーいう意味だ?オレへの当てつけか?」
藤真はただ単に思ったことを口にしただけなのだが、三井はそれを聞くに的確な相手すぎることに気付き苦笑した。
『宮川歯科クリニック』
矯正とインプラントの文字もある。
「あるよっ。練習中に派手にボールあたっちまってよ、慌てて駆け込んだ。助かったよ、近所にあって」
「大学生ぐらいの息子いる?」
「知るかよ。何?知り合いか? 確かに院長先生は親父ぐれーだったかもな」
ふーん、と自分で聞いておきながら、藤真は気のない返事を返した。