藤真長編
□conte 19
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先客に遠慮して足を止めた友人の横で、視線を引きはがそうにもそのままに茉莉子は彼女を見つめた。この前はよくわからなかったが、人目を引くほど愛らしくかわいらしい。少し藤真に雰囲気が似ているだろうか。
花形と談笑する姿に、地元のそして少なくとも高校時代からの知り合いなのだと理解する。最近になって何かきっかけがあり恋人関係へと発展した。そう考えるのがいちばん自然だ。
「彼ら見てると、矢野たちの身長が普通に思えちゃうね。ほら、藤真くん来たけど……なんか目立つ集団だなあ、あの髪ツンツンしてる人も」
目を伏せたら負けになると自分に言い聞かせ、茉莉子はそのまま視線を真っ直ぐに維持した。自分自身に負ける―― そんな風に感じた。
何かを確かめるように遠巻きに彼らを見ていると、矢野がこちらに気付きやってきたが、「お疲れ」と言うのが精一杯。目の前に立ちはだかる彼が自分の視界を遮断してくれたことに心なしかホッとした。だが、それもつかの間、こちらに藤真もやってきた。
「久しぶりな気がするな」
この一週間、彼らは大学に欠席届を出していた。
「お疲れさま」とこわばる唇を何とか動かしたが、うまく声がだせない。友人が「残念だったね」と会話を引き取ってくれたので助かった。
さきほどは逃げちゃいけないと踏ん張るように顔をあげていたが、藤真に手が届くほど近くに来られては、そんな儚い意気込みは簡単にへし折れてしまいそうだ。
怖いのは―― 彼女を優しく見下ろす藤真を見てしまうことよりも、その目が自分に向けられたときに胸が高鳴ってしまう、そんな自分の気持ちの方だと気付いたから。それはもうどうしようもなく藤真にひかれてしまっている証拠だった。
「なあ、藤真、さっき従妹の隣にいたのが仙道?」
「そ。オレのこと裏切ってF体大行くってよ」
頭上で交わされたそんな話も耳に入ってこない。こんな行き場のない想いはどうしたら。どうすればいいのか。茉莉子は寒々とした思いに襲われていた。
今年のインカレ優勝はF体大。今回A学は第3位という結果におわった。
通常の日々に戻ったのだが、確かにその日、藤真を見かけもしないなと思っていたら、夕方、茉莉子のもとに矢野から電話がかかってきた。
「藤真、風邪ひいちまったらしいんだよ。汗かいたまま外に出たりすっから自業自得ってやつなんだけどさ、茉莉子、様子見にいってやってくんねぇ?」
「え……ちょ、ちょっと……なんで私!?」
「近いんだから頼むよ、な?」