藤真長編U

□conte 35
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さっさと飲んで帰れというわりには、お互いや他大のバスケ部の話、後輩の話から宮城はどこに進学するんだ?などと話が広がっていった。そういうところも藤真らしい。

「そうだ、来月、三井んとこと試合するだろ? 神が見に来るって言ってた」
「あいつ、もう練習に参加したりしてんの? どうよ?」
「やっぱ気になるか? 神もY大とやるって聞いて、おまえのこと意識して来るみたいだぜ?人間的には違うけど、シューターとしてのタイプは似てるからな。あ、努力具合も違うか」
「努力はあいつに及ばねえかもしれねーけど、オレにはセンスっつーもんもあるんだよ!」 



薄闇とともに寒々しさが辺りを覆い始めたのを見て、マジで風邪ひく前に帰ろと三井は立ち上がった。玄関まで来た藤真に、「じゃ、この服、そのうち返すから」と言えば、いつでもいいぜと余裕の返答。

「あーあ、まさか藤真の彼女だったとはな。オレの純な妄想を打ち砕きやがって。どうせ『好きになっちゃいました』とか言われたんだろ……チッ」
「いや、『好きになっちゃった』のはオレだな」

「それはヤベーな」と三井は清々しい中にニヤリと少しやんちゃな笑みを浮かべた。



「三井さんって、家どこなの?」
「〇山駅の近く」
「へ…え……。西口?東口?」
「どっちかわかんねーけど、なんで……?」

そういえば、三井んちの近くの歯科医院。茉莉子の元カレの家だと思われる――

「あいつがどこ住んでるかなんて、どーでもいいよ」と言うと、茉莉子を囲い込むように座って、後ろから抱きしめた。顎をとらえ上向かせ、唇を押し付けるように重ねる。苦しくなった茉莉子が逃れようとしても、そんな様子を知ってか知らずか、藤真はぐっと指先に力をこめて茉莉子を離そうとしなかった。





Y大との試合当日。いつも試合前に音楽を聞いて、藤真は集中を高める。今日も例外なくそれに身を任せていると、控室のドアが開いた。

「お、神、来たな」
「おはようございます。今日はスタメンだそうですね。調子どうですか?」

今回、初のスタメン出場が決まっていた。近年、確実に順位をあげてきているA学院大。藤真が3,4年になる頃には優勝も夢ではないとの期待が大きい。その布石となるであろう今回のスタメン出場。

「気合い入れてやるだけだな」
「藤真さんらしい―― このヘッドフォン、すごくカッコイイですね。何聴いてるんですか?」
「これ? ああ……」

藤真は外に聞こえるように音量をあげた。

「へえ、意外。クラシックか。聴いたことあるなあ。なんて曲ですか?」
「『英雄ポロネーズ』オレの勝負曲」

その時、ミーティングするぞと声がかかった。緩い表情にうつりかけていた藤真だが、たちまち険しい線をキッと戻す。
さあ、行くぞ! と羽織っていた上着を脱いで立ち上がった――


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藤真長編 fin. 2016/6/14
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