三井長編 続編・番外編

□Voyage 01
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最初の目的地は蔵王。
お昼は十割蕎麦をいただいた。薬味の辛味大根の風味とともに鼻をぬける蕎麦の香りがたまらない。

「やっぱこっち来たら、蕎麦食わねーと。途中でラーメン食うわけにはいかねえ」
「へえー、寿、蕎麦好きなんだあ」
「社会人になってからだな。なんせ違いがわかる男だからよ」
「じゃ、山形のそば街道で食べ比べする?」
「ったく、おまえはまた脱線する………」

「いいから黙ってついてこい」とまた車に乗せられ、次なる行先は蔵王のシンボル『御釜』だそうだ。
蔵王といえば真冬の樹氷が有名だが、それだけ厳しい冬の寒さゆえに春になっても大量の雪が残っており、蔵王連峰は真っ白い姿を見せる。
平地は桜や菜の花が見頃となり、まさに春本番の景色なのだが、新緑の道を登っていくと、標高が上がるにつれ木々の葉がなくなり、道路脇に残雪が目に付くようになり、やがて除雪された雪が両側に壁のように続く。
ところどころに駐車場があり、車を降りて雪壁の前にたつと、それは三井の身長よりさらに1メートルほどあるだろうか。

さらに登っていくと、その高さはさらに倍に。
圧迫感さえ感じるその光景はまさに雪の回廊。空の青とのコントラストが美しい。

「5月にこんなに雪を見るとは思わなかったよ。すごいね」と紫帆が感動を口にすれば、自慢げな三井。
この時期にしか見ることのできない非日常の光景。しかもゴールデンウィーク中であり、道路はかなり渋滞していたのだが、ふたりの間には和やかな空気が流れる。
終点の頂上付近の展望台の駐車場に車を停め、火口湖が有名な御釜を見にいこうと外に出れば、そこはさすがに雪が残る寒さ。気温は1℃で風も強い。

「寒ぃ! ここだけ真冬だな」

そこまで予測していなかったので、薄手のコートしかない。
着れそうなものを着こんで、なかば走るように数分行くと、凍っているところもあったが、湖水は深みのあるエメラルドグリーンの色をたたえていた。
太陽のあたり具合によって、色が変わって見えるところから五色沼とも呼ばれているらしい。
荒々しい火口壁と対比して神秘的な雰囲気。

「なんか……あの色、藤真を連想させんな。キラキラ反射してっかと思えば、吸い込まれそうだったり、見た目より深そうなとことか……」
「エメラルドグリーンが?」
「あいつの高校時代のユニフォームが緑なんだよ。大学も」
「そうだったんだ。確かに……ハマったら抜け出せなそうかも」

もっと見ていたい気もしたが、寒さに耐えられず、彼女の手を引き元きた道を引き返す。

「手、冷てえな」
「女は冷え性なの」
「じゃ、ゆっくり温泉に向かいますか」

三井も運転の疲れを癒したい。
本日予約してある温泉地をナビに入力し、今回は紫帆の運転で再び雪に囲まれた道を下っていくと、またもや何かを見つけたようだ。

「蔵王酪農センターだって。ちょっと行ってみよ? いい?」
「ウィンカー出しながら言うんじゃねえ。………いいよ」

さほどの寄り道でもなさそうだし、ひとつぐらい望みを聞いてやるかと従った。
チーズ、ヨーグルトなどの乳製品が並ぶ工場併設の土産品店。紫帆が目をつけたのは“ブルーチーズのソフトクリーム”

「さみーって言ってたのにアホかよ」
「それとこれとは別」

やはり女は理解できない生き物だ、と三井は思った。その後の運転は三井に交代したことは言うまでもない。
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