仙道 後半戦
□conte 35
2ページ/2ページ
「さすがだな、藤真さんのお母さん。ナイスアシスト」
「え?」
「玲を連れ出す口実くれてさ」仙道はニコッと笑う。
今から秋田戦とは思えぬその余裕に、玲は率直に疑問を口にした。
「試合直前の彰って、初めてかも……緊張しないの?」
「んー、それより『興奮する』だな。特に相手が強いときはね」
「そういうところは感心する。私なんてラケット持つ手が震えちゃうよ」
え?玲が? と仙道が意外そうに驚いた。ロビーの奥に選手たちの控室がある通路が続く。関係者以外立ち入り禁止。その手前の柱の陰で仙道は立ち止まった。
「じゃ、今度そんな珍しい玲を見てみてーな」
「やめて、余計に緊張するっ」
「抱きしめて震え止めてやるよ」
「けっこうですっ!」
そんなことされたら心臓のドキドキがなおさら止まらなくなる、と玲は思う。
「オレはして欲しいけど」と言うと、仙道は玲の腰にさっと手をまわし、軽く吸い付くようにキスをした。
「これで頑張れそう」
「まったく……ホント緊張感ないんだから」
じゃ、行ってくると玲の頭を撫でていく。それを見送ってから、戻ろうと振り向くと、ちょうど神奈川ジャージの男たちが歩いてきた。
湘北メンバーだ。宮城がニヤニヤしている。絶対見られた……。
「余裕だねえ、仙道はー」と三井がからかうように言うから、「ホントですよ。これで勝たなかったら、ただのセクハラですよね」とニッコリ笑って返した。
「秋田に勝ってくださいね」
お、おう、と応じながら、2人は去っていく玲の後ろ姿を見つめた。
「今の藤真さんっぽくないっすか……」
「マジで似てるかもしれねー」
この日の最終戦 神奈川VS秋田。一時は神奈川が流れに乗り、10点差をつける場面もあったが、そこは山王。冷静に淡々と返してくる。経験値の違いを見せつけてくるようだ。
河田のオフェンスリバウンドからのダンクで、じわじわと追い上げてくる。そうなると相当なプレッシャーだ。
神奈川も仙道からの最高のパスを流川が決め、やり返す。牧のペネトレイトから、神のスリーがきれいに決まる。だが、最後は深津のスティールから、やはり決めたのは河田だった。
神奈川92VS95秋田。
帰りのバスの中、三井が仙道に話かけた。
「負けちまったから、お前、セクハラで訴えられるぞ?」
「は? 突然どうしたんです? オレが? 誰から?」
「お前の彼女から」
「何だそれ、楽しそうな話だな?」聞こえた藤真が身を乗り出した。
この年、秋田の優勝で国体は終わった。