仙道 後半戦

□conte 35
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「さすがだな、藤真さんのお母さん。ナイスアシスト」
「え?」
「玲を連れ出す口実くれてさ」仙道はニコッと笑う。

今から秋田戦とは思えぬその余裕に、玲は率直に疑問を口にした。

「試合直前の彰って、初めてかも……緊張しないの?」
「んー、それより『興奮する』だな。特に相手が強いときはね」
「そういうところは感心する。私なんてラケット持つ手が震えちゃうよ」

え?玲が? と仙道が意外そうに驚いた。ロビーの奥に選手たちの控室がある通路が続く。関係者以外立ち入り禁止。その手前の柱の陰で仙道は立ち止まった。

「じゃ、今度そんな珍しい玲を見てみてーな」
「やめて、余計に緊張するっ」
「抱きしめて震え止めてやるよ」
「けっこうですっ!」

そんなことされたら心臓のドキドキがなおさら止まらなくなる、と玲は思う。

「オレはして欲しいけど」と言うと、仙道は玲の腰にさっと手をまわし、軽く吸い付くようにキスをした。

「これで頑張れそう」
「まったく……ホント緊張感ないんだから」

じゃ、行ってくると玲の頭を撫でていく。それを見送ってから、戻ろうと振り向くと、ちょうど神奈川ジャージの男たちが歩いてきた。
湘北メンバーだ。宮城がニヤニヤしている。絶対見られた……。

「余裕だねえ、仙道はー」と三井がからかうように言うから、「ホントですよ。これで勝たなかったら、ただのセクハラですよね」とニッコリ笑って返した。

「秋田に勝ってくださいね」

お、おう、と応じながら、2人は去っていく玲の後ろ姿を見つめた。

「今の藤真さんっぽくないっすか……」
「マジで似てるかもしれねー」


この日の最終戦 神奈川VS秋田。一時は神奈川が流れに乗り、10点差をつける場面もあったが、そこは山王。冷静に淡々と返してくる。経験値の違いを見せつけてくるようだ。
河田のオフェンスリバウンドからのダンクで、じわじわと追い上げてくる。そうなると相当なプレッシャーだ。

神奈川も仙道からの最高のパスを流川が決め、やり返す。牧のペネトレイトから、神のスリーがきれいに決まる。だが、最後は深津のスティールから、やはり決めたのは河田だった。
神奈川92VS95秋田。

帰りのバスの中、三井が仙道に話かけた。

「負けちまったから、お前、セクハラで訴えられるぞ?」
「は? 突然どうしたんです? オレが? 誰から?」
「お前の彼女から」

「何だそれ、楽しそうな話だな?」聞こえた藤真が身を乗り出した。

この年、秋田の優勝で国体は終わった。
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