牧 中編

□シネマティック Rival 06
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「その男、どう出てくるかな」

言いながら、藤真はその形のいい唇にくいっと酒を流す。杯が空になった。同じものをもう一本頼んだ。

「牧さんと麻矢さんの間に割り込む隙はないんですけどね」
「だからだよ。そういう逆境って燃えるだろ? 三井じゃねえけど」
「どういうことだ?」
牧は箸を止め、顔をあげた。

「好きな女が恋人とうまくいっていればいるほど、自分もそれが欲しくなるっていうか、その愛情を向けて欲しくなる。モチベーションになっちまうんだよな」

なるほどと頷き、神が続けた。
「それに、牧さん、気付いてないと思いますけど、昔からライバル視されやすいとこありますよね」
「あ、それ、わかる気がする」
間髪を入れずという感じで藤真が言った。

「県内はもちろん、全国の連中からも。豊玉の岸本さんとか絡んできたじゃないですか」
「豊玉か。懐かしいけど、いい思い出ねーな」と藤真が呟く。そういえば、そんなことがあったかもしれない。

「オレは敵が多いのか……?」
「あ、悩ませちゃいました? お互い切磋琢磨的ないい意味でですよ。牧さんのハングリーさや闘志が相手にも移っちゃうんだと思います。他にも嫉妬やら羨望とか憧れとか入り混じって、もうカオスですね」

結局よくわからないが、身に覚えがないわけでもない。ここのところ翻弄されていたのは、麻矢への独占欲や彼女に近づく男への嫉妬心であり、どうやらそれが滲み出てしまっているようだ。
だからといって、この状況、どうしたものか。星野との仕事が終わるのを待つしかないのだろうか。

「なおさら牧の彼女に会ってみてーな。これ、飲んだら行こうぜ」
「どこにだ?」
「パーティー会場」

牧は呆れたようにイスの背にもたれかかった。藤真には困ったものだ。完全に面白がっている。

「ちょっと覗くだけだよ。ついでにその噂の男も」
「デザイナーか。なんかおしゃれそうですね」
「確かに、顎ひげが似合って雰囲気があるかもしれん」
「ひげ? それならオレだって生やしたことぐらい……」

そう言って顎に手をあてる藤真に、「は?」と牧と神の驚きの声が重なった。

「あれ、言ったことなかったっけ?」
「それはいつのことだ?」
「高3の夏」

10年の時を経て知った事実に気を取られ、店を出るのが遅くなってしまった。観念して大人しく従って向かうも、表参道の会場についたころには、さきほどまで華やかさで溢れていただろう通りはいくぶん静けさを取り戻していた。
もちろん、麻矢と星野の姿もない。会ったら会ったでどういう顔をしたものかと思っていたが、すれ違いもしない、これも問題だ。
今まで以上にふたりのことが気になる。焦燥が牧の胸を騒がせる。真っ直ぐ帰ったのか、それとも──

「牧さん……?」

ちょうど会場から見送られて出てきた人物、仙道だった。光沢のあるスーツにシルバータイとベスト。胸もとにはチーフを合わせたインフォーマルスタイルで、誰かと思った。

「あれ? 藤真さんに神も。お揃いでどうしたんですか?」
「近くで飲んでてさ。おまえ、拉致しにきた。行くぞ」

「ということだ」と牧は仙道の背を押した。

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6話 余談小話
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