大学編 三井

□conte 02
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別れ際、急に思い出したように、玲が「この間はすみませんでした」と言ってきた。今度改めてお詫びしたいんですけど……と。

「お詫び?」
「私、この間健司のウチで……」
「え……」

あのキスを覚えてるのか!? 三井は焦った。

「三井さんにお酒かけちゃって、服汚したって。よく覚えてないんですけど、うっすらそんな記憶も……だから今日のお礼もかねて」
「あ、そんなことか」

ホントにそんなこと、だ。すっかりあっちの記憶で上書きされてしまって忘れていた。お詫び、お礼なんてどうでもいいが、三井はふと思いついた。

「今日、ツレのふりしただろ? で、今度その逆を頼まれてくれねーかな?」

マネージャーに好意を寄せられているけど、部内のこと、穏便に断りたい。そのために苦し紛れに彼女が出来たと嘘までついたが、そんな気配ないと信じてもらえない、と。

「彩子にでも頼もうかと思ってたんだけどよ、宮城がうるさそーで」
「三井さんなら他にも頼めそうな人、いっぱいいるんじゃないですか?」

玲がニヤニヤと口元に笑いを浮かべた。

「あ!? 信用できるやつじゃねーと、あとあと面倒だからよっ」

勘違いされたり、その後も彼女づらされたりすると困るってことかな? と解釈しつつ、自分は信用できると遠回しに言われたようで、少し嬉しい。

「じゃ、それでいきましょうか。面倒起こしませんから安心してください」
「助かる。また連絡するよ」

去っていく三井の後ろ姿を、不思議な人だなと思いながら玲は見送った。
一見、近寄りがたい雰囲気を持っているけれど、少しでも接するとその印象は壊され、むしろ近づいて彼のことが知りたくなる。乱雑な言葉の中にも、だからこそたまに発せられる一言が心に残ったりする。その意外な温かみに何だか心くすぐられる……。

三井さん、女殺しだなあ、気をつけよ―――
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