あれから5年後

□conte 04
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『アメリカで得たもの』について、仙道は「日本人としての自分のバスケ」と答えた。
これはマニュアル通りの答えだなと思った玲は、具体的に聞き出そうとあれこれ話しを促す。
仙道も丁寧に答えた。そして一段落したころ、ふいにポツリと。

「そうやって何かを得るために、何かを失わなければならないとしたら、芹沢さんならどうします?」

仙道が自分に質問をしてきたのでビックリした。しかもそれはどういう意味か……計り兼ねる。思わず聞き返してしまった。

「仙道くんは、何か……失ったものがあるんですか?」
「それなりに」

仙道はジッと玲を見つめた。一瞬流れた緊迫した空気に思わず俯きがちになっていた玲だが、手をとめて顔をあげた。

「すべてを手にいれるのは難しいですね……でも失ったことが、得ることへの力になるのなら。だからそうして手に入れたものを大事にしてください」

それを聞いて、仙道はニッコリ笑った。


玲はとにかく流れを切り替えるために慌てて言葉をつなぐ。 

「進めますね? 今回帰国されたのは、どうせ牧さんに来てくれって言われたからだと思いますけど……」

とたんに仙道は声を出して笑い出した。玲が不審な顔をすると「確かにそう。さすがだね」としきりに頷いている。
「さすが藤真さんの従妹の『玲ちゃん』ってこと。ね、マネージャー?」

リーグの統合のためにとか、日本のバスケの発展のためにとか何とか言うのがセオリーだったので、マネージャーは苦虫をかみつぶしたような顔。

「牧さんに言われたからっていうのもあるけど、あえて言うならもうひとつ理由があるかな」
「それは……?」
「うーん、でもきっと怒られちゃうからなあ。ま、リーグの件でも入れといて」

このやりとり。昔にもどった錯覚に陥りそうになる。そして聞き出そうとしても、こういう場合、仙道は最後まではぐらかすことはわかっている。今後について聞いてから、マネージャーに話をふった。

「別の連載で、出来れば藤真と一緒のインタビューが欲しいって話があるんですけど、来週あたり、何とかなりません? 従妹のよしみでお願いしますよ」
「芹沢さんにそう言われちゃうとなあ。確認して連絡するよ」
「ありがとうございます。今回は真面目な内容でしたけど、次回は女性誌なのでプライベートなこと、聞かせてくださいね」
「大丈夫かな……手加減してよ?」



少し整理してから帰りますという玲を残して、ふたりは席をたった。

「おまえ、インタヴュアー泣かせのくせに、今回はよくしゃべってたな」
「そうですか?」
「いつも答えが返ってこない、ごまかされるって言われてんだから」

仙道は困ったように笑う。

「だって苦手なんですよ」
「芹沢さんもよく仙道にテンポ合わせられたよなあ」
「ウチの名PGの藤真さんの従妹だからでしょう」

おまえもずっとPGやってたくせに……とマネージャーは苦笑いした。
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