三井長編

□conte 06
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ぼんやりふたりの後ろ姿を見て立ち尽くしている紫帆に、宮城が声かけた。

「大丈夫っすよ」
「え?」
「あんな頭してっけど、根はいいヤツだから」
「そう……みたいですね」

その答えに宮城はチラッと紫帆をみた。

「三井サンがいつもは桜輔乗っけてんっしょ?」
「ケガの時もその後もすごくお世話になってます」
「らしーね」

そしてトランクを覗き込み、自分の荷物をあさりながら「桜輔も三井サンと同じタイプのシューターで、っつうか三井サンが育てたようなモンでさ」と言った。

「そうなんですか……?」
「だから自分と重ねてんじゃねーかな、あのヒト」
「それって三井さんもケガしたことがあるってこと……?」

ヤベー、三井サンに怒られるかなと宮城は「まあ、そんな感じっすね」とごまかした。ケガした後のことを言わなけりゃいいだろう。

三井は自分の二の舞を演じることのないよう、何とかしたいのだと思う。桜木がケガをしたときもそうだった。意外なのか当然とも言えるのか、桜木を一番気に掛けていたのも三井だった。

紫帆もなるほどと思っていた。これでなんでこんなに三井がよくしてくれるのか、ナゾが解けた気になっていた。自分も同じ経験があるから、桜輔のサポートをしてくれるのだと単純に。
まさか2年ものブランクや彼の苦悩など、知る由もなかった。


体育館ではすでに部員たちが集まっているらしい。ボールのバウンドする音、床とバッシュのこすれる音が聞こえる。そこへ3人は消えていった。


日曜の8時半。いつもだったらまだベッドの中にいるであろう時間。透き通るような淡い水色の2月の空が広がる。寒さの中でも気分は清々しく、紫帆は休日の早起きも悪くないと思った。
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