三井長編

□conte 08
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「オヤジさんも来てんのか?」
「ああ、いるよ」

じゃ、よろしく言っといてよ、と言いながら三井はまた車に乗り込もうとして、思いだしたように踵を返した。

「徳男、よけーな事こいつらに言うんじゃねーぞ?」

そして桜輔の肩をポンと叩き、「応援団のことバラすなよ!」と小声で念を押した。
何だか紫帆に弱みを握られるような気がしてそう言った。あの女はここぞって時に皮肉ってくるに違いない。

そのやりとりをおもしろくも感じているが、なんせこちらにやり返す材料が少なすぎる。弟に聞くのはなんだし、こうして時々顔を合わせるだけ。なのにこっちの要らない情報だけダダ漏れてる。

少し前は宮城が「三井サンの昔のことしゃべっちゃった」などと言うから心底焦った。あいつもビビるような言い方しやがって。とにかくこれ以上、余計なデータを与えるようなマネをしたくない。
堀田を残していくのを不安に思いながら、三井は中林家をあとにした。


当の堀田は思い出したようにトラックから道具一式を持ち出し振り向くと、紫帆が門を開けて待っていてくれた。
スミマセンと中に入りながら、「弟さん……」とボソッとつぶやくように口を開いた。

「ケガを?」
「部活中に。それからずっと三井さんにお世話になりっぱなしなんですよ」
「そう…すか……」

もう松葉杖はついていないが、歩き方がぎこちない桜輔の後ろ姿を堀田は見送った。その案ずるような視線に、紫帆は堀田の外見とのギャップを感じずにいられない。

(湘北高校はこういう人が多いなあ。ギャップありすぎ……)



その後、桜輔は休憩中や帰り際に友達のように堀田にいろいろ話しかけていた。これも甘え上手の特権か。

夕飯時にも、「あの人、見た目のいかつさと全然ちげーよな」と話題にし、それを聞いた母親が不思議と感心していた。

「家業も継いでえらいわよねえ。元不良の子ほど、切り替えたら立派なもんね」
「元不良?」
「らしいわよ? となり町の堀田造園のヤンキー息子って。高校のとき相当ひどかったって」
「ふーん……」

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「三井と徳男」このふたりのSSです。


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