続・5年後
□Imprevu 1
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ふたりを下まで送りに出た。歩きながら奥田がふいに仙道に話をふった。
「仙道くん、ケントって知ってる? テニスの」
聞いたことがあるような気がする──
「少し前に日本に戻ってきたプレイヤーなんだけど、彼、玲を口説きにかかってるらしいよ? ハハ、まだオレと続いてると勘違いした同僚がさ、ご丁寧に教えてくれたんだよな」
「先週対談したって相手ですかね……?」
「そうそう、その時もテニスしようって誘われたんだろ?」
横にいた藤真にも話が見えてきた。いつだか話題にされていたことだ。
「あまり女性関係、いい噂聞かないんだよ」
奥田は反応を確かめるようにいちどチラッと仙道を見やると、再び口を開いた。
「ま、いちおう言っておくよ。それに今回のイベントにも出るから、顔合わせるかもしれない」
仙道は曖昧に微笑んだ。
「仕事以外、玲に近づけないようにしますよ」
自分の真意を探るような仙道のその笑みに奥田は気づき、フッと目を閉じて言った。
「オレはもう藤真くんと同じスタンスだよ、兄貴とか父親気分だな」
「父親は勘弁してくださいよ」と藤真が笑った。
この一連の会話に目を丸くしているのは牧。
玲? 奥田と続いてる……? 薄っすら話が見えてくるが、確信が持てない。
「じゃ、牧くん、次に行こう。 あ、今の説明は移動中にな」
ふたりが去ると、藤真がうらみがましい目つきで睨みつけてきた。
「オレを巻き込むなよ?」
「そんなつもりありませんよ」
「いや、何かおまえはサラッとシレッとものすごいことをしでかすような気がする」
相変わらずの藤真の自分への評価に笑いをこらえれば、さきほどの少しばかりの憂惧は浮かび上がった泡のようにすぐ消えた。
最近、よく思う。
自分は自分たちは、周りに支えられてこそだと。それはバスケのようなチームプレイを必要とする競技に携わっていれば、イヤと言うほどわかっているつもりだったが、それでもなお、都度都度思い知らされる。
そんな気持ちが隠しようもなく表情に表れていたのだろう。
「何、ニヤニヤしてんだ? なんか企んでるな?」と、今日一番の嫌そうな視線を投げつけられた。