三井長編 続編・番外編
□suite 03
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ふいに、それまで黙って聞いていた紫帆が口をひらいた。
「そういうの、ありますよね。何も知らない私が言うのもなんですけど、その時その時に必要なことって。必要といっても良いことばかりじゃなくて、時にはそういう『別れ』とかも含めて……」
「何だよ、ずいぶん哲学的なこと言うんだな」と三井が少し驚いたように隣の紫帆を見下ろした。
「そう? 誰しもポイントポイントでものごとを取捨選択するでしょ?」
「その昔、三井は意地やプライド捨ててバスケ部戻ったんだろ?」と追い打ちをかけるように藤真がニヤリとする。
そうだ、あの時三井はバスケを選んだのだ。
あ、その例えピッタリと紫帆が感心したように頷いた。三井自身も自分が引き合いにだされてうんざりするのと、そのロジックに納得する気持ちとが混じり合い、反論するのは止めた。それに……勝てる気もしない。
初秋の夕暮れは幕が下りるように夜に変わっていく。辺りにほの暗い明かりが点き始め、ベイブリッジの向こうにはプラチナ色に輝くコンビナートの夜景が浮かび上がってきた。
藤真と三井がもうすぐ始まるシーズンに向けて、バスケ談義に花を咲かせている間、紫帆は仙道と何やらずっと話していた。
何、話してんだ?とふと三井が耳を傾けた時には、紫帆が三井の誕生日を知ったいきさつを話していたようだ。
三井さんらしいなと笑う仙道に気付かれないように、テーブルの下で紫帆に軽く膝をぶつけると、ハッとしたように見上げられ、ヤバイという顔をされる。
「おい、バラすなよ」
「いいじゃないですか、三井さん。いい誕生日になったんでしょ?」
「余計なお世話だ……」
*****
「やっぱ、三井、おもしれーな。でもまたちょっと変わった……かな」
三井たちと別れてから、ふいに藤真がぽつりと言った。例の洞察力からくる考察だろうか。
「あるがままの自分を受け入れてもらえてるからじゃないっすか?」
「おまえ、見てねえようで、案外見てんだな」
「オレの得意はノールックですからね」
いや、運転中はしっかり前を見て欲しい。
だが仙道も元PG。瞬時に様々なことを多角的に悟る、そんな癖がついているようだ。
「あ、紫帆さん、遠距離恋愛経験者みたいですよ?」
「そんな話してたのか?」
「そうじゃないですけど、何となく……?」