藤真長編

□conte 08
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その頃―――

「双璧……?」
そう聞き返しながら、茉莉子は高野の言葉がすぐにはイメージできず、それにしても隣の花形という男は身長どのくらいなのだろうかと全然別のことを頭の中で考えていた。

「そう、そのもうひとりが、ほら、今藤真に話かけてるヤツでさ」

“勝てなかった相手”とはきっと彼のことなのだろう。高野の話から『牧』という名前なのだと知った。
がっしりと体格良く、同学年とは思えない貫禄がある。そして、藤真と同じ色、同じ温度の闘志の炎を体の奥で燃やしている―――際立つ眼光としたたる汗からそんな印象をうけた。

だが、こちらの勝手な観念とはうらはらに、彼らは実に和やかに何か話している。肩をたたいて笑い合っている。てっきり終生のライバルとお互いを意識し、倒すべき相手として一触即発の関係だと思い込んでいたので、茉莉子は拍子抜けした。肩透かしをくらったような心地になる。

「ライバル同士なんですよね……?」
「ま、普段はフツーに飲みに行ったりするらしいぜ? でも試合中は火花炸裂だけどな。見てりゃわかるよ」

とはいえ、藤真も牧もまだ1年。いわゆる1軍の所属だが、さすがにスタメンではない。第3Q辺りで交代で出るのがもっぱらのパターンだと聞いている。矢野は微妙だとも。淡々とその戦況を見ているうちに前半が終わった。


「次、牧、出てきそうだな」花形の声が聞こえた。念入りに準備を始める様が見える。彼の強さを確かめるように目で追っていると、ハーフタイム残り1分の合図。

フロアを見れば、コートに入る緑のユニフォームの5人の中に藤真の姿があった。
「あ、藤真くんも出るよ」との友人の言葉に、自分の体にも緊張が駆け抜けるのを感じながら、「ほんとだ」と茉莉子は口先だけで返事をした。
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