藤真長編U

□conte 27
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料理を手にフロア奥にあるソファーに並んで座った。改めて見渡すと、ダーク系のコーディネートが多い中、友人の真っ赤な衣装が目をひく。窓際にはツリーが飾られ、流れるのはお決まりのクリスマスソング。

「クリスマスだなー。ここ来るまでもすれ違うのはカップルばっかりでさ。こっちは男ふたりだろ? あいつグチグチうるさくて」
「なんか想像つく……」
「だから茉莉子に会えてホッとした」

ホッとしたけれど、黒のシックなワンピースにルーズに髪を纏め上げた彼女にドキッとしたのも確か。

「これ、手触りよくて気持ちいいな」と藤真はワンピースの裾にそっと触れた。
「そ、そう……?」と茉莉子も手を伸ばすと、すかさず藤真はその手を掴んだ。

「こっちは温かい」

そう言ってしばらく握り締めたままでいた。さきほど来たばかりの藤真の手はまだ冷たい。だが、人が近づいてくる気配に茉莉子は手を引こうとした。しかし藤真は離そうとしなかった。

「あ、噂のおふたりだ」
「付き合い始めたって、それって今までそうじゃなかったってこと?」
「ちょっと茉莉子、聞いたよ〜」

足を組んで膝を寄せ、繋がれたままの手に気付かれないよう努める彼女。何とか取り繕って受け答えしているが、その焦りっぷりがそれこそ手に取るようにわかる。
今日は大人っぽい装いで、そんな彼女に一瞬面食らったが、中身はいつもの茉莉子だなとおかしくて、堪えきれない笑みをごまかすように藤真はグラスに口をつけた。


その後もゲームや企画で盛り上がっている皆を眺めながら、子供のころにサンタに何をもらった? とか他愛ない話に笑い合っていると、「藤真、ちょっと来いよ」と矢野の大きな声がした。

「これで景品はいただきだ」と参加させられたのは、マシュマロキャッチ。相方がなげたマシュマロを、いくつ口でキャッチ出来るかを競うのだが、藤真と矢野のバスケ部コンビは反則だ!ということで、投げる藤真がアイマスクをさせられた。とはいえ、難なく景品をゲットした。

『加島屋の瓶詰セット』

「誰か家に届いたお歳暮を持ち出したんじゃない?」
「これ、5000円ぐらいするんだよ」

見た目が地味な品に、なーんだって顔をしていた矢野だが、値段を聞いて「マジ?」と目を見開いた。

「藤真に一瓶やろうと思ったけど……」
「半分はオレのおかげだろ?」
「じゃ、鮭のほうな。オレ、いくら」

そのまま5,6人で円形のテーブルを囲んで座った。友人たちとワイワイと過ごすクリスマスもいいものだ。ちょうど小さめにカットされたケーキが振る舞われる。

「じゃ、今をときめく新カップルにファーストバイトを披露していただきますか」と矢野が音頭を取った。
「それ結婚式の余興でしょ!?」と茉莉子が訂正しても、「余興は余興、楽しくやろーぜ」と取り合ってくれない。

普通にやってもつまらないからと、誰かが「これ使える」とさきほどのアイマスクを持ち出してきた。あれよこれよという間につけられてしまい、茉莉子は諦めたらしい。しぶしぶ従っていた。

「ちょっと、あれ、やらしくね? 目隠しプレイ?」と矢野が藤真に耳打ちしたと思ったら、藤真の肩を後ろから押さえつけた。動けないように。
危なっかしい手つきで茉莉子が藤真の口にケーキを運ぼうとするのを、藤真が「もっと右」「もうちょい下げろ」など指示をするさまに、周りは笑い転げている。わざと邪魔してくる。

少しクリームが頬をかすめたが、何とか口に入った。間髪入れずに、今度は藤真の番だと声がかかる。

「茉莉子、マスクはずさないでそのままね。はい、あーんして」と女友達も悪ノリするので、茉莉子もヤケになって言われるがまま。もう皆が盛り上がってくれるならいい。むしろ見えていないから出来るのかもしれない。

目隠しをされた茉莉子の艶々とした唇が薄くひらかれる――

「……エロいな」と矢野は藤真にコソッと囁いた。
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