三井長編 続編・番外編

□En confiance 5
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翌日はまんまと二日酔い。ワインを何本空けたんだろう。よく覚えていない。家でゴロゴロと過ごしていると、夕方、三井から電話がかかってきた。

「大丈夫か?」
「何が……?」
「……やっぱ覚えてねーのか。酔っ払い」

昨夜も電話をくれたらしい。会話をした記憶があるような、ないような。

「もう家だっつーから、安心したけどよ」
「ごめん……寿、忙しいのに……」
「それ、ほとんど終わったから」

土日両日とも出勤した甲斐あって、一連の仕事のカタがついたそうだ。来週はいつものように湘北に行くからと言う。そして、飲み過ぎるなよと念を押された。

「でもおもしろかったぜ? 昨日のおまえも」と電話の向こうの三井が笑う。
「上海行ったら、何とかって中国茶を買ってこいだの、パンダはいらねーだの、ひとりでしゃべってよ……ちょっと会いたくなった」

良かった。変なことを口走っていなくて。紫帆は胸をなでおろした。
しかも、そんなことを言われたら、紫帆も三井に会いたくてたまらなくなった。会いたい。今から行ってしまおうか。明日は月曜だが、会社にはむしろ三井の家からのが近い。

「じゃ、みやげのことはまたな。課長とじゃなくなったから、少し融通ききそうだし、きっと市村に聞けば希望のお茶を買ってきてやれるよ」
「え……?」
「課長、別の仕事入っちまって、代わりは市村になったから気楽に行けそーだ」

罪のない三井の言葉が、紫帆にのしかかる。行ってもいいかと問おうとした声は、見事にかき消えた。
感情のアップダウンが激しくて、思考がついてこない。適当に頷き、何とか電話を切ったが、紫帆はそのまま座ってぼんやりし、すぐにいつもの自分に戻れなかった。

引継ぎが終わったら、もう2人が会う機会はめったになくなるだろう。そう思った矢先のこと。出張であり、仕事だとわかっている。だけど――― 最後に何とも大きな爆弾を抱えてしまった気分だ。

だが、何も起こらず、ただ距離を縮められる日々は、逆にいつ何かが起こるかもしれないという不安を絶えずその裏に隠していた気がする。もういっそのこと何でもこい。そんな境地にすらなる。
昨日、言われたではないか。自分は三井を想って信じていればいいと。ちょっとしたことに無用に敏感になり、重要なこととどうでもいいことを取り違えていた。
紫帆はのそのそと移動して、ベッドに顔を埋めた。

「来週まで……」

上海出張が終わるまで。そこに期限をつけてみたからといって、意味があるかなんてわからない。
ただ、とにかく自分は自分なりにいくしかない。来週までを乗り切ろう。そう紫帆は決めた。
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