牧 中編
□シネマティックストーリー 06
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「あの……何か他にもなさっていらっしゃるんですか? その、きちんとメンテナンスされているお身体だな、と……」
「ん? いや、こういうのは初めてなんだ」
牧はわかっていない。
彼女は遠回しに言ったけれど、全体のバランス、ひとつひとつの筋肉、その弾力、それらを指して感嘆しているのだと思われる。
違うよと牧に指摘しようかとも思ったが、ま、いいか――
それより自分も気持ちが良すぎて。
スクラブのあと、洗い流すと肌がしっとりと潤っていた。そして再びうつ伏せになり、ここからはオイルマッサージ。
さきほど選んだオイルが背中に垂らされた。
あたたかい。
手ですり込んだあとは、ホットストーンを使いオイルをさらに肌へと深く浸透させる。
強めの指圧マッサージを受けているようだ。
さらにセラピストの魔法のような手技は続く。触っただけで凝っている部分がわかるようで、その部分を重点的にほぐしてくれる。
最初のころは、気持ちがいいだの、力が抜けるようだのとポツポツと会話をしつつ、ストーンの由来を聞いたりしていたが、気付けばガムランの音色しかしない。
「牧くん……?」
「眠っていらっしゃいますよ」
「ふふ、本当ですか?」
「はい、ぐっすり」
常に戦闘態勢だった海南の牧が、相手に身体をまかせたまま眠っているなんて。今まで見たこともない彼の姿に、心くすぐられる。
自分といるときは、こんな風にリラックスして欲しい――
そんな気持ちが芽生えてくるのを頭の片隅で感じながら、麻矢も眠気に逆らえず、吸い込まれるようにまどろみに落ちた。
だからお互いフェイシャルに移ってからも、気の抜けたような調子で、バスローブの紐を結び直していただく始末。
パーテーションも取り払われた。
「やだ、寝ちゃった……牧くんにつられた」
「上野のほうが先だろう?」
「それはない、絶対に牧くん。そうですよね?」
牧の担当セラピストは曖昧に微笑み、「失礼します」とクレンジング後の顔全体にオーガニッククレイの泥パックを施していく。
もちろん麻矢にも。
「すごい顔だな、怖いぞ?」
「お互いさまだよ、牧くんだって。今日、何枚目のスクープだろ」
「乾いてないセメントに顔から突っ込んだみたいだな」
じっくりと発汗させたあと、とりのぞき、再びオイルでマッサージを受けた。
またもや至福の時間。
そして最後は頭皮をアーユルヴェーダ式の手法で深く刺激をされ、全身の活力を甦らせる。
以上で心地よい時間も終わってしまえばあっという間だった。
直後は夢見心地で気だるいのだが、歩き出すと身体が軽い。関節が滑らかで、筋肉にもハリが戻っている。そして何より肌が潤っている。
「若返った気分だな」なんて遠い目をして牧が言うから、麻矢はうつ向いて笑いを堪えていたが、とうとう堪えかねて吹き出した。
「もう! 笑わせないでよ」
「笑うところか? というより、上野はよく笑うな」
だとしたら、それは牧のせいだ。
高鳴る胸の鼓動を悟られれないように、麻矢はいっそうの笑みを滲ませた。
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