三井長編 続編・番外編

□Esthétique
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「マジかよ……」

紙よりはしっかりしているが、布というには心許ない。透けないように色は黒。バスローブの下はこの使い捨ての下着をつけるらしいのだが……。
紫帆もそれを身につけているのかと、ふたりだけの時に裾から覗こうとした三井は突っぱねられた。

「いいじゃねーか、ちょっと見せるくらい」
「やだ、これはさすがに……」とはにかんだように頬を赤らめる。
「見せろって」
「ぜーったいイヤ!」

それこそ彼女のその下着に隠された部分も知っている。なのに予想外に恥じらわれると、これはちょっとそそられる。
三井はニヤけてしまう顔をごまかすように、ランチに添えられたグレープフルーツを口にした。


やがてトリートメントルームに案内された。
アジアンリゾートを思わせるモダンなインテリア。部屋には爽やかな香りが満ちていた。

カウンセリング後に施術台にそれぞれうつ伏せになり、上半身を晒される。
三井は隣りに目をやると、紫帆の背中の曲線をゆっくり目でたどった。薄暗い照明の中で白くなめらかなラインが浮きあがるようで艶めかしい。

枕に両手を置き、その上に顎をちょこんと乗せている。視線を感じたのだろう、紫帆もこちらに顔を向けた。

「ベッドの大きさギリギリだね。これ、仙道さんだったらはみだしちゃう」
「もっとデケーやつ、いっぱい知ってるぜ?」

そんなことを話していると、何かを塗られ、マッサージが始まった。紫帆のほうを見ていれば、それは白いクリームであり、どんな風に何をされているのかがわかる。

滑るように彼女の肌の上をセラピストの手が動いていく。かと思えばゆっくりと押し付けるように、リズミカルに流すように。自分にも同様のことがなされ、それはそれは心地よい。

そしてその後のオイルマッサージはさらに極上だった。筋肉のひとつひとつを揉みほぐされ、リンパに沿って押し上げられると声をこらえなければならないほど。
すぐ隣からもうっとりとした吐息が漏れ聞こえ、エロティックな想像が頭をかすめる――
 
「三井さま、呼ばれていらっしゃいますよ?」とセラピストに声をかけられてハッとした。紫帆と目が合うが、まだどこか遠いところを見ている気分。

「ねえ、大丈夫? すっごいマヌケな顔してたよ?」
「うるせ。気持ちいいんだからしょうがねえだろ」
「どうせ変なこと考えてたんでしょ?」と小声で囁かれる。
「バ…バッカ、眠くなっちまっただけだ」

紫帆の頬にはからかうような笑みが浮かんでおり、逃れるように三井は目を逸らした。
そう、それは眠りを誘う官能的な快楽。
エステがこんなにいいものだったとは――
牧が「良かった」という理由がわかるような気がする。それにしても、同じペアコースを体験したと聞いたが、牧はいったい誰と来たのだろう。今は付き合っている女性はいないと思っていたのだが。


フェイシャルトリートメントにうつった。
顔だけを集中的にあれこれされて、何とも面映い。パックをするという。
何かを塗りたくられ、紫帆を見やれば、白塗りのお化け……いや、歌舞伎役者のよう。

「おまえこそマヌケな顔だな」
「お互いさまだから」

いずれにしても、女性は美のためにこんなに手を尽くし、時間をかけ、金をかけ、努力を要するのか。
こんなピエロ化してまでも――
女の気持ちはわからない、そう三井は思った。
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