大学編 牧
□conte 08
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「あ、牧さん来た」
自分の後方に神が目を向けた。
「オレが最後か? 悪かったな」
落ち着いた牧の声が斜め上から耳に届く。その声にドキリと心臓が脈打つのがわかった。
少し振り返ると、そのまま神たちと会話を続ける牧の精悍な横顔が目に入る。ふと牧の視線が自分に降りてきた。
「玲ちゃんも今日はわざわざ悪いな」
よどみなく『玲ちゃん』と呼ぶ牧と、その自然な笑みに、さきほどからの緊張が溶かされていく。
「いいえ、だって牧さんのおごりでしょ?」
店の大きなスクリーンには、先日のNBAの試合が流されていた。先週はサッカーの試合で店内はおおいに盛り上がったらしい。
F体大のOBであるオーナーを紹介され、写真をとったり、ひと通りをこなしてから、奥のソファー席でくつろがせてもらう。
「あれ、ファイナルのヒート対スパーズじゃねえ?」
「何戦目だ?」
「大画面で見るのっていいな」
そうだろう? とオーナーもやってきた。
スクリーンの試合をお互い解説しあって、盛り上がる。彼らには最高の酒のつまみだ。オーナーが新しいビールを持ってきながら口を開いた。
「牧のひとつ下でアメリカ行ったヤツいたろ? いい線いくかなあ? 日本人*人目のNBA選手とかならねーかな」
なんつー話題を振るんだ、とお互い密かに思う。だが、玲と仙道のことを知る由もないのだからしょうがない。藤真が何食わぬ顔して答えた。
「ああ、仙道ですね。ヤツも高校、神奈川なんでよく知ってますよ。あいつはPGもいけるから、7フィッター揃いのアメリカではそっちの路線でいけばいいかもしれませんね」
玲は素知らぬ素振りで、ビールを傾けていた。その後もしばらく仙道の話を続けざるえなかったが、玲は適度に相槌を打つだけ。
牧はそんな玲の様子を視界の中で見るともなしに見ていた。会話に加わりながら、ほとんどの神経は玲に集中していた。
あの日から仙道の名が出たのは初めてだった。玲の心の内が気になる──
オーナーが呼ばれて戻っていったので、また気の置けない会話に戻った。ふう〜と藤真が息をはいた。
「変な気を遣うから……でも、ありがと」
そう言って、ちょっと失礼と玲は化粧室に行ってしまった。