大学編 牧

□conte 09
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席をたった牧は、オーナーのいるカウンターを通りすぎた。その奥の通路には化粧室と書かれた木のプレートがかかっている。
ちょうど玲が戻ってきた。牧はその腕をサッと掴んで外に連れ出した。

ひんやりとした空気が肌をなで、夜風が気持ちよい。宙をさまよっていた思考がストンと自分におさまるような気がした。

「牧さん……」
「大丈夫か?」

もちろんという変わりに玲は微笑んで軽く頭を縦に振る。その頭をそっと撫でた。そのまま手が滑り降り、玲の頬を優しく包む。
玲のことが心配だったというのもあるが、それよりも何だか無性に顔がみたくなった。藤真や神を気にすることなく。
そして実際顔を見たら、抱きしめたくなったが……牧は少しかがんだかと思うと、反対の頬に軽くキスをし、耳元で「先に戻ってろ」と言った。

玲も牧の胸に飛び込めたら……と思った。その温かさが恋しい。
藤真と神がいること、ここが店の前であることを忘れそうになったが、牧に耳元で囁かれた言葉で我に返った。
何となくふわふわした気持ちで玲は藤真たちのところへ。それをごまかすように「、あれ、牧さんは?」と聞くと、オーナーんとこ行ったと答えが返ってきた。

「なあ、最近の牧、変じゃねえ?」

藤真が突然、神と玲に問うてきた。

「今日も何か口数少ねえし、上の空って感じだしよ」
「そうですか? 牧さん、ああ見えて意外と天然なとこあるから」
「ぷっ、確かに。クソ真面目な顔しておもしれーことポロッと言うよな」

さすが元監督。人の機微に敏感だな、などと感心している場合ではなかった。

「おまえも今日は大人しいな」

今度はターゲットが玲に移る。

「そりゃ……あの話題には入りづらいわよ」
「いや、その前から。会ったときからさ。何かあったのか?」
「お兄さんたちに話してごらん?」と神も言う。

何だかんだ言って藤真も優しい。少しばかり遠回しだけれど。そんなふたりに隠し事をしているようで、玲も胸がチクリとする。
けれど、「やだ、何もないよ。健司兄さんに宗一郎兄さん?」と笑って受け流した。
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