大学編 牧

□conte 11
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牧は自分の胸に絡まる腕に目を落とし、そっと手をあてた。

「ずっと欲しかった言葉だが……いざとなると驚くな」

肩にかけていたタオルが床に落ちた。その腕を掴みよせ、向き直ると、玲を抱き上げベッドに座らせる。
ギシッと鳴るベッドのスプリングの音が、どこか遠くで聞こえる気がした。それよりも玲が自分を好きだと言ってくれたことが全身を占領している。
顔周りの髪をそっと梳き流し、そのまま口づけようとした時、「ま、待って!」と初めて玲に拒まれた。

「牧さん……は?」
「今さらそれを聞くのか?」
「ちゃんと聞きたい」
「……ってことは聞こえてたんだろう?」

玲は苦笑した。

「知ってます? ベッドの中での会話は法的には無効なんですよ? ちゃんと牧さんを独占できる証拠が欲しいです」

抑えきれない笑みを浮かべながら、牧は再度顔を近づけ囁いた。

「オレも玲が好きだ」

唇が重なる。心に何のためらいも、とまどいもない滑らかなキス。

「だが、今もベッドの上だな?」
「でもいい……また後で言ってもらうから」
「何のあと?」


互いの唇を味わいながら見つめあった。玲は自分の髪をまとめていたバレッタをはずし、頭を振るように髪をほぐす。その手を今度は牧の身に着けたばかりであろうTシャツにかけ、ゆっくりと捲り上げた。
それに従うように牧も袖から腕を抜き、脱がされると彼女に圧し掛かった。

重ね合わされたお互いの肌から、体温とともに気持ちも流れ込んでくる。牧の胸の中を温かいと思ったのは、その気持ちがあるから。そしてその境が溶け出していくような心地にふたりは酔い、その密度は増していく。
牧の動きに合わせるように、玲が何度も牧の名を吐息とともに口にした。

「オレはここにいる……」

存在を深く刻みつけようと、さらに力強さは増すばかり。思わず逃げ出すように体をひく玲を、そうはさせまいと抱き寄せる。
玲の締め付けに顔をわずかに歪ませながらも、耳元に顔を寄せ囁いた。

愛してる──

「これも…無効……か?」

苦し気な呼吸の合間に玲が何か言おうとしたが、牧は優しくそれを塞いだ。
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