続・5年後

□Dejeuner
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「たたきにして丼モノにしよ。オレ、アジやるから、玲、しょうがやネギやって?」
「大葉あるかな?」
「買ってきた」

しめった髪のまま、まな板と包丁を手にキッチンに立つが、いつも思うけれど、調理台の高さが合ってない。低すぎる。でもアジをたたくにはちょうどいいかもしれない。

鼻歌を歌いながら、トントンやっている仙道の横で薬味を用意し、ついでに新たまねぎでサラダを作ろうと、薄切りにし、軽く水にさらしてからカツオ節とクリームチーズで和える。醤油にほんの少しのオリーブオイル。

ご飯が炊ければ、すし酢を混ぜるのが仙道で、玲がうちわであおいだ。

「この匂い、すっげえ食欲そそる」
「ほら、手早くやんないと」

仙道が数粒を指にとり、玲の顔の前に出すのでそのままパクッと味見した。
「どう?」「もう少し」
その指を自分でペロッとまた舐めてから、仙道は酢を足した。



「やべっ、ビール飲みてえ」
「2時から練習!」
「走って、汗かいてからのこれだぜ? 魚屋のオジサンには感謝だけど、タイミングが酷だよなー。あんま腹いっぱいにするわけにいかねえし」

これからキツイ練習を控えた身。苦しくなるようでは困る。

「まだ残ってるし、他にも何か作るから、帰ってきてからの楽しみだと思って励んできてよ」
「玲、待っててくれんの?」
「だって私もこれで飲みたいもん」

練習に行かねばならぬのを面倒に感じていた仙道だが、そのあとの充足感への期待にやる気も出ようというものだ。

それに最近、習慣のようになってしまっている“もしも”で始まる自分の中のイメージが頭をかすめる。

もしも彼女がこのままずっと一緒にいてくれたら。もしも一緒に暮らせたら。
都合のいい想像だとは思いながらも、そのイメージを拭い去ることができなくなりつつあった。

「あ、『旨いアジが〜』なんて、健司の耳に入れないでよ? きっと、ただいまーってついてきちゃうから」


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