続・5年後

□Viande grillee 1
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「芹沢さんにもゆっくりお会いしたかったんよ。なんたって仙道くんの彼女やからね。要チェックやわ」
「いえ、こちらこそ相田副編集長に……」
「そんな長ったらしく呼ばんで?」と弥生は彦一同様、人懐っこい笑みを見せる。

「構えんなっちゅうのが無理やろ。姉ちゃんの仙道さん贔屓は有名やからなー」
「その恩恵でこうして焼肉接待なんやから。文句言うんなら、あんた帰り?」

職権乱用にパワハラや……とつぶやく彦一に、弥生は肉焼き係りを命じた。

そんな姉弟のおかげで玲の緊張もほぐれた。そして玲も藤真にレモン絞れだの、キムチをよこせだの、サンチュ用の味噌をつけろといろいろこき使われ、しばらくは大人しく従っていたが、しまいには「自分でやって!」とキレた。

「藤真くんをそんな風にあしらえるの、玲ちゃんぐらいちゃうん? 今度、藤真くんの幼少期のころのこと、聞かせてもらえへん?」
「いくらでも。あ、弥生さん、次、何飲みます?」

藤真と仙道を取り上げると、明らかに部数がはねあがる。きっかけはそこでも、その興味をバスケそのものにも向けられたら。この活況を一時的なものにしたくない。編集者としての習癖が染みついていた。

「ねえ、ホルモン好き? チャミスルで内臓系いかへん?」
「カルビよりホルモンのが好きなくらいです。ミノが一番かな〜」
「ハチノス知っとる? コラーゲン豊富なんよ。女性には必須や。レバーは? いける?」

誰をもてなしてんだかわかんねーなとの藤真の言葉に、仙道は眉だけで答える。


やがて女性同士が盛り上がるうちに、気安いメンツとお酒のせいか、弥生がふと漏らした。「プロポーズされた」と──
長年付き合ってきた相手らしく、彦一も知っていたが、プロポーズのことは初耳だったらしい。店中に響き渡りそうな絶叫を、すんでのところで藤真におさえられた。

「わあ、弥生さん、それじゃあ……?」との玲の問いに弥生はいやぁ……と頬杖をつきながらも恥ずかしそうに頷く。
いつもテキパキと快活な印象の彼女が、とてもかわいらしい。頬が染まっているのは、アルコールのせいではないだろう。

えらいこっちゃと泡吹きそうな彦一に、「私だってアラサー過ぎや。なんや、問題でも!?」と恥じらいつつも反論する。

乾杯しましょうよ、とその場はいさめられ、またグラスが空いた。
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