続・5年後

□Projet sans planification 3
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「先生、今日はありがとうございました。それと、ひとつご報告なんですが、玲と結婚します」と穏やかだがはっきりとそう言った。
ただ、あまりにサラッと言うから、一同、仙道の言ったことが飲み込めず── シーンと静まり返った中、慌てたのは玲だ。

「ちょ、ちょっと! 彰ってば」
「なに? 今さらなしとかそれこそナシだぜ?」
「そういうことじゃ……」

面食らってポカンとしていた部員たちから、弾かれたようにうおっーと歓声があがった。顔を見合わせながら、スゲーとか、マジ?とか大騒ぎ。彦一も「えらいこっちゃ!」と芸能リポーターさながら、ふたりに詰め寄ってくるではないか。

それを制して、腕組みをした田岡が「みんな……落ち着け」と声かけた。その表情には、仕方がないやつだと呆れたような、だが隠しきれない喜びが浮かんでいる。

「仙道よ、そういう報告は最初に会ったときに言っておけ」
「そうですね。でもさっき決まったもんで」
「さっき?」
「ええ、昼メシ食って、ここ来る前に」

仙道の答えは田岡にとって不可解そのものだったのだろう。田岡は玲に助けを求めるような視線をよこした。

少々不本意だが、こんな展開に慣れてしまった自分がいることに玲は内心ためいきをつきながら、「はい、さきほどプロポーズを受けました」と正直に申告すれば、またもやうおっーとどよめきが起こった。もはや収集がつかない。

おめでとうございますやら、何て言ったんですか? などと矢継ぎ早に質問されたが、田岡が「参考にならんこと聞いてどうする」と釘を刺し、「IH出場で花を添えられるよう、練習に戻れ」と場を仕切った。


見送りに出た田岡に、仙道と玲はあらためて頭を下げた。
「ご両親のところへ行くんだろう。早く行け。彦一はオレが引き留めておく」などと言うから、仙道はハハっと笑った。

「それと――― 仙道。まったく、今から思えば、講演の舞台上でプロポーズしそうになっただろう。言葉に詰まった時だ。違うか?」

一瞬肩をギクリとさせたものの、すぐに仙道は「まいったな」と苦笑しながら頷いた。




「やっぱ、田岡先生にはかなわねーな」と運転席に乗り込みながら、仙道は優しい笑みをたたえた。本当にあの場でそんなことされていたら、どうなっていたことか。しかもやりかねないから恐ろしい。

それより、どこに向かっているだろう。と思う間もなく、この道は―――

「本当にウチに行くの?」と仙道を見やれば、さっき先生も言っていたじゃないかと言わんばかり。そのことを実家に連絡しようとして、その手を止められた。

「大丈夫、言ってあるから」
「は? いつ?」
「2日ぐらい前かな。玲からいい返事をもらえたら伺いますって。だからそろそろ行かねーと、逆に心配される」

断られたんじゃねーかってさ、と相変わらずのんびりと答えるから、開いた口が塞がらない。そしてさらに驚くべき発言が続くではないか。

「なあ、玲、近いうちに1週間ぐらい休みとれねえか?」
「1週間も……? 調整しないとわからないけど……」

なんで? と恐る恐る聞けば、「指輪」と返事が返ってきた。

「玲が欲しいのにしたいから、一緒に買いに行こうって思って」
「それと長い休みと何の関係が……?」

「N.Yかパリに買いに行くから」

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プロポーズにまつわる小話
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