続・5年後

□Prologue2
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だが、どうやらこの店のセレクトは玲のためらしい。しゃれた器に少しずついろいろな品が、色鮮やかな野菜を添えて盛られている。
女性好みのスタイル。しかも今日は藤真の奢りだというではないか。そうだ、彼はそういう人だった。

「この軍鶏のたたき、うまいだろ」

ヘルシーでお酒のつまみとしても最高。
「このあと日本酒いこうぜ」という藤真に何の異論もない。喜んで付き合わせてもらった。


「なあ、そういえば、おまえらこーいうのはねえの?」と芸能人の婚約会見さながら、藤真が左手の甲を顔の横に立ててみせた。

「ああ、これからです」
「おまえ、ヤらしいからてっきりプロポーズの時に用意してっかと思った」

何ですかソレ、と仙道は困ったように笑う。

「そうだ、再来週、玲と1週間ほどパリに行ってきます」

意味がわからず、行ってくれば? と言わんばかりに涼し気な冷酒グラスに口をつける藤真。チームとしての練習に差し支えない範囲ならば、好きにオフを楽しんでもらって構わない。それがやる気にもつながる。

「エンゲージリング、選んできますよ」
「ぶっ! はあ? そのためにパリ!?」
「記憶に残るものにしたいと思って」
「普通にどこで買っても残るだろっ!」

さすがにその思考回路にはついていけないらしい。藤真もそれなりに仙道のマイペースさには慣れているはずなのに。

「じゃ、藤真さんならどうするんですか?」
「あ、私も興味ある」
「そんなの、知らねーよ。オレが聞きてえ」
「教えてよー、ロマンティック王子のプロポーズ……ぷぷっ」

少しいい気分になっていた玲が口を滑らせた。しかも、王子様だってえ〜と笑いが止まらない。

「仙道、おまえ、尻軽のうえに口も軽いのかよ。 自分も何て言われたか、ちゃんと言ったんだろーな? あぁ? このエロ大魔王」
「それちょっと違ぇんだけど」

仙道は首をすくめた。

「しかもフットワークも軽くパリ……。とにかく、土産買ってこいよな。遠征用にヴィトンのソフトラゲージ」
「えー、そんなの健司に持たせたらエロ王子になっちゃう」
「ざけんな。それは冗談としても、買ってきて欲しいチョコレートがある」
「あら、今度はずいぶん控えめ」
「日本じゃ売ってねえんだよ」
「よく知ってるね?」
「ああ、オレ、大学でニ外、フランス語だったからな」

いまいち答えになっていないことに玲は気付かず、愉快そうに藤真のグラスに酌をした。
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