三井長編U

□conte 25
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あまりの三井の腕の中の心地よさに、ずっとこうしていたい気がしたが、そういうわけにもいかない。
紫帆が少し身じろぎすると、離れていく心許なさに三井は紫帆の背に置く手の力を強くした。
また自分の胸に沈めさせると、ひそめた声で「キリがねえな」と、口ではそう言う。

しばらくしてやっと解放された紫帆は、火照る頬を押さえながら立ち上がり、何となく三井を真っ直ぐ見ることが出来ずにいると、サッと手をひかれ、ふたりは車に戻るべく歩き始めた。

今さらながら何を言ったらいいかわからず、お互い黙していたが、その沈黙は決して嫌なものではない。
むしろ繋がれた手のひらから気持ちが伝わってくるような気がした。




下に停められた車が見えてくると、「ここに…付き合ってくれてありがとな」と三井が言った。
紫帆は何も言わなかったが、手にキュッと力が入るのを三井は感じた。

「なんか…急に大人しくねーか?」
「何よ、突然……そんなことない」
「お、照れてる? 意外にかわいいとこもあんのな」
「意外って!? そういうこと言う三井さんのが本当は照れくさいんでしょ?」

紫帆を好きになった決定的な理由とかはわからない。
けれど互いの間に流れる、気取りなく心安く滑らかな空気には安らぎを感じる。
それを守るためには、うわべを取り繕うだけじゃだめだ。
紫帆にはすべてを知ったうえで受け入れてもらいたい。



「好きだ、とか言っちまう前の話なんだけどよ……」

また三井の口から出た「好き」という言葉に一瞬ドキリとするけれど、
彼が何か話そうとしていたことを紫帆も思い出した。

「イヤな予感がするから、言わなくていい」
「そういうわけにはいかねえ、聞いてもらう。ほら、車乗れって」


順番を間違えた気がしなくもないが、三井は紫帆にバスケ部襲撃事件のことを話し始めた。
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