三井長編U

□conte 37
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「何、見てんだ?」

そして、ああ、これか、と数ページめくって小さな写真を指差した。

「ここだよ。山王戦のあとの写真だ。あわよくば表紙になってたかもしれねーんだぜ? でもこのあとの試合はウソにみてえにボロ負けでよ」
「山王戦の録画、見た……」
「オレ、フラフラだっただろ?」と三井は懐かしそうに笑った。
「ううん、……何て言ったらいいかわかんないけど……凄かった」

本当はあの時の込みあげるような気持ちを伝えたいけれど、うまく言えない。
それに、涙してしまうほど心動かされた自分がいたことは三井には内緒にしたい気もして、にわかに判断がつかず、そのまま小さく映る高校生の三井を見つめていた。

そんな想いが滲むような紫帆の視線に、三井は触れ合う前からどうしようもない感情におそわれる。
雑誌をそっと取り去ると、そのまま後ろから紫帆を抱きしめた。


明かりを落とし、ベッドに移動してからも、与えられる口づけは柔らかなままで、ゆっくりと何度も繰り返される。
離れた唇から溢れた吐息が紫帆の頬をくすぐるように撫でていき、耳元で自分の名を呼ばれる。その声の優しさに、至近距離で見上げた三井の逞しい体に、それだけで心臓が高鳴った。

ぴったりと肌を合わせれば、三井の胸は燃えるように熱い。それが少しづつ自分に移され、埋め尽くされるような気がした。

いっそ埋め尽くして欲しい──
それは三井にも伝わって、触れ合いはゆっくりと密度を増していく。

「ひ、さし……」

吐息とともに紫帆の口からこぼれたその言葉に、やっと言ったな、と三井はこっそり思いながら、ひと呼吸入れると、淡くピンクに染まった首筋に顔を埋めた。
肩や背に優しく回される細い腕の感触、自分の愛撫に素直に示される反応が愛しくて、紫帆に対して何でもしてやりたいと思った。

三井によいようにされて、浮かされたように紫帆は三井の名を口にする。必死で応えようとするも、それすらも吸収され、すがるだけで精一杯。それはいたく三井を刺激した。

「いいか?」
「ん……」
「珍しく素直だな」
「……じゃ、ダメ」

潤んだ目でそんなこと言われても。三井は笑みを深くした。
そして受け入れた三井の熱に、紫帆はさらに翻弄される。快感にとらわれているのは三井も同じで、想いがうまくまとまらない。
けれど、彼女が愛しい。もうどうしようもなく、その想いだけが溢れてきた。
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