三井長編U

□conte 21
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いつ来ても解放感あふれる陵南高校前駅から電車に乗り込んだ。夕方なのでそこそこ混んでいるが、いつぞや三井と偶然出会った東海道線に比べればはるかに快適だ。
そしてあの時以上にあっという間に藤沢についてしまった。

「じゃ、飲み過ぎに気をつけて」
「おまえに言われたくねえな」
「うるさい……」


乗り換え口に消えていく後ろ姿を見てふと気が付いた。チャンスはいくらでもあったのに、三井がどこに住んでいるのかをまた聞きそびれた。

でも次がある。今度は絶対に聞こうと心の中にメモしたが、その「次」は思ったよりもすぐにやってきて、三井の住まいは紫帆が聞くまでもなく明らかになるのだった──




待ち合わせた店に藤真と仙道も到着した。三井は思わずしげしげとふたりを眺めてしまう。

背が高く、服の上からでもいい体をしているのがわかる。名を馳せた現役アスリートで、見た目も手伝って、女性からの人気は抜群。

「どうしたんですか? 三井さん。そんな見つめられると困るな」
「アホ仙道。だから湘北が勝つんだよっ」

今できる唯一の自慢。

「へえ、陵南行ってきたんですか」
「田岡監督、相変わらず張りきってたぜ?」

懐かしそうに仙道が笑った。その穏やかな笑みを見て、また無性に焦燥感がかき立てられるのはなぜだろう。

自分の隣に座った藤真はおしぼりで手を拭きながら、こっちを見上げてきた。その瞳に一瞬、見入ってしまい吸い込まれそうになった。何かおかしな暗示にかかっている。
(あいつのせいだ……)


そして、お酒が入って忘れてしまわないうちにと、藤真に試合のチケットの件を聞いた。

「ああ、いいぜ? でも三井が積極的に言ってくるなんて珍しいな」
「……ちょっとな……そう、知り合い。知り合いが見たいって言うからよ……」

ここでも要領を得ない三井の口ぶりに、意外にも牧が口をはさんだ。

「女性か?」
「……いや、まあ、それはそうだけど…まだ何だってわけじゃあ……」
「へえー、『まだ』ね。ふーん。 わかった、いい席用意してやるよ」
「………」



おまけ(飲み会の続き)
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