仙道 前半戦

□conte 13
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「玲ちゃん」
「ん……」

玲は無意識に問いかけに反応する。
仙道は少し考えてから「なあ、オレと付き合わねえ?」と言うと「うん……」と肯定の返事が返ってきた。完全に居眠りしている。

「ホントに?」
玲はコクリと首を縦にふる。「好きだよ」と耳元でそっと囁けど、玲は相変わらず頷き返すだけ。10月にしては 温かな日差しが降り注ぐ。何を提案しても受け入れてもらえる今ならと、仙道は行動にうつした。

「キスしていい?」
「う、ん……」

その返答を確かに聞いた仙道は、そのまま顔を傾け、玲の唇をとらえようとしたが、ふと思い直し、額にそっと唇をあてた。
その暖かく柔らかな感触と、陽をさえぎる大きな影に玲の意識は引き戻され瞼が開く──

「……えっ」
「あれ、目、覚めちゃったか」
「な、何……?」

あまりの距離の近さに驚く玲。仙道は困ったように眉尻を下げる。

「キスした」
「はあ?」
「していいかちゃんと承諾とったぜ。それにいちおう遠慮しておでこにしたんだけどな」
「え……?」
驚くのも無理ないだろう。だが、いい加減な気持ちでしたわけではない。

「オレ、玲ちゃんのこと好きって言ったんだけど、聞いてなかった?」
今度はゆっくりはっきり言った。玲は目を見開いたまま固まってしまう。その隙をついて「本気だよ」と迫ると、待ってとさすがに両肩を押し返された。

「あの、ホント、ちょっと待って」

行動も言葉もすべて、玲をパニックにさせるには充分だった。そんな玲を仙道は愛おしそうに見つめる。いつからこんな気持ちになったのかわからない、いや、最初にテニスをする玲を見たときから魅かれていたのかもしれない。そう考えると、ひとめぼれってやつか?なんて仙道はふと自問自答する。

「玲ちゃん、好きだよ。自分でもビックリするくらい好きになってる」
自分の肩を押し返すその手をそっと掴む。玲の目を見てその言葉を伝えた。
「玲ちゃんは? 答え聞かせてよ」

沈黙が流れた。眠気から覚めたばかりで、まだ頭が回らないらしい。

「あ、あの、私……部活行かなくちゃ。ごめん、仙道、またあとで」

すごい勢いで立ち上がると玲は走り去ってしまうではないか。その後ろ姿を見つめ、ごめんってさっきの返事じゃないよな、と眉をさげて仙道は困ったように笑った。
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