仙道 前半戦
□conte 22
2ページ/2ページ
突如、無機質なインターフォンの音が静かな部屋に響いた。ドアを開けると越野だった。そのままだった仙道の荷物を届けてくれたのだ。玄関の女物の靴に気づき、「わ、わりぃ」と帰ろうとするから、仙道は慌てて引き止めた。
「玲、部活後だろ? 疲れて寝ちゃったんだよ。オレは断じて何もしてねえから」
「何もって?」
「おまえが想像するようなこと。……まっ、理性保つのに必死だったけど」
しかし、これ以上ふたりきりはヤバい。一緒にいてくれないかと越野に頼めば、彼も察したようで、しょうがねえなーと部屋にあがった。
玲は仙道のベッドで寝ていた。
「う……ん」
艶っぽい吐息をもらし、けだるそうに寝返り、髪がハラハラと顔にかかる。
「こりゃ、ヤバいな」と越野はニヤニヤとこちらを探るように見てくる。おかしくてたまらないといった様子だ。
「おまえは見るなっ」とベッドに背中を向けるように座らせた。
「肩はどうなんだ?」
「明日だけ休ませてもらうよ」
声をひそめて話していると、10分もしないうちに玲が目を覚ました。越野と目があって、声にならない声をあげる。心底驚いたようだ。
「やだ…起こしてよ……」
身支度を整えると、玲は越野と一緒に仙道の家を出た。既に辺りは夕闇に包まれ薄暗い。まだ肩が痛むであろう仙道が心配だが、かといって部屋にふたりだけというのも悩ましい。そんな思いが交錯していると──
「なあ、アイツ 玲ちゃんのことスゲー大事にしてるんだな」
数メートル歩いたところで、いきなり越野がそう言った。
「え……?」
「ん、いや、ただそう思っただけ。アイツらしいっていうか、何ていうか。うまく言えないけどよ、玲ちゃんのことホントに好きなんだなって」
不器用な言葉であったけれど、越野が言ってくれたことはとても嬉しいものだった。
並んで歩いていた玲の歩みが止まる。それに気づいた越野が振り返ると、玲はニコリと笑いかけた。
「コッシー、ごめん、忘れ物した。先帰ってて」
越野もその意味ぐらいわかる。「おう!」と返し、そのまま歩き出した。
(オレ、ナイスアシストじゃね?)