大学編 牧
□conte 03
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しばらくすると、玲がひょっこり牧の隣に現れた。
「牧さん、ウェアを買いに来たんですか?」
「ああ、出てきたついでにな。玲ちゃんは?」
「いえ、私は神くんに付き合ってきただけで」
「神に付き合って……?」
「このあとご飯食べようってことになったんですよ」
そうか、と牧は頷いた。玲にとって神は藤真を介して近い存在だし、ふたりは同じ年だ。親しくなって何ら不思議なことはない。
玲もウェアのラックに手を伸ばし、「これ、F体大のユニフォームと似てますね」と紺色のラインの入ったTシャツの裾を持ち上げた。
そして、その隣にあったきれいなブルーのTシャツにも、玲は手をとめた。それは陵南カラーの青。
ちらっと玲に視線を走らせると、穏やかな顔はしているが、じっとそのブルーを見つめていた。
そこに神がやってきたことで、玲がハッとする。牧の視線に気づき、恥ずかしそうに苦笑いした。
「玲ちゃん、ありがと。行こうか。じゃ、牧さん、今度そのスポーツバーに連れてってくださいよ」
「ああ、またな」
自分の用事を済まそうと、再び商品に向き合うも、さきほど玲が手にしていたブルーのTシャツが目に留まる。陵南の象徴的な色であり、きっと玲にとっては仙道の色なのだろう。
気持ちの整理をつけようとしているが、彼女はまだ仙道を忘れられずにいる。必死にそれを悟られまいとしているが、ふとしたことでそれを感じる。
たまにしか会わない自分ですらそうなのだ。藤真や神は明らかにわかっているはず。
神は── そんな彼女をどう思っているのだろうか。さきほどふたりを目の当たりにしたせいか、お似合いだと言われている会話が聞こえてしまったせいか気になる。
あの練習試合以来、諸星も玲ちゃんかわいいな〜とうるさい。三井も「男がほっとかねーだろうな」と言っていた。
彼らも……自分が感じるように、玲に対して何かしらの感情を抱いているのだろうか。三井が言うように、他の誰かが現れないとも限らない。
そして、こんなことを立ち尽くして思いめぐらせている自分にハッとする。
もう行かないと── 約束を思い出し、それ以上考えるのを牧はやめた。