大学編 牧

□conte 04
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牧は玲の頭にタオルを被せると、汗だけ流してくるとバスルームに入った。
頭から熱いお湯を浴びながら、小降りになったら駅まで送ろうと、そう思っていた。外からは時折、ゴロゴロと雲の鳴る音が聞こえてくる──
慌ただしく出ると、コーヒーを入れて玲に手渡した。

「想像通り、牧さんってきちんとしてるんですね。」

軽く部屋を見渡して玲が言う。

「そうか? 藤真が乱雑なだけだ」
「いや、男なんてあんなもんなんじゃないですか? 健司はイメージと合ってないだけですよ」

玲はコーヒーをひと口飲み、美味しいと呟いた。

「牧さんだって 間違ったイメージ持たれません? 怖そうとか?」
「怖そうって何だ、怖そうって。玲ちゃんは最初そう思ったってことか?」
「あ、私 墓穴ほったかも」玲はクスクス笑った。

そうだな、と牧はしばし考え、「それよりオレは年齢を間違われる」なんて言うから玲は吹き出しそうになる。

「大人に見られるってことにしましょうよ」

一生懸命笑いをこらえようとするのを見て、牧も口元を緩めた。
ここ1年ほど、玲と会う機会は多かった。だが、その姿はいつも仙道の隣にあり、その後も藤真や神、たいてい誰かがいた。こうやってふたりだけの空間は初めてかもしれない。

聞いてみたいことはいろいろあるが、どれも聞けるわけない内容ばかり。それに本当のことを答えてくれるわけもない。玲の『本当』が知りたい。そして、自分はなぜそれが知りたいのか──

最初は仙道の影響かと思っていた。あの掴みどころのない男が本気で惚れてた相手だから。そして何となく感じる庇護欲は藤真と同じ感覚だと思っていた。
だが、神と親し気な彼女を見たときに感じたちょっとした焦燥感。これはもはや男女間の感情でないと説明がつかない。牧は自覚し始めていた。
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