大学編 牧
□conte 05
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「無理して笑わなくていい」
「無理なんて……」
言い終える前に牧に手首を掴まれた。その手は、熱いくらいに暖かい。それが伝わってきて、溶かされてしまうような錯覚に玲は陥る。隠している弱い部分を牧には見透かされているような気がする。
「我慢するな」
やっと視線の合った玲の目に、じわじわと涙がうかんできた。玲のバランスが崩れ出した。
「無理したって、何も変わらない」
牧はひと呼吸おき、ゆっくりと近づくと、その涙を隠すように玲の顔を自分の胸に引き寄せた。
広く温かな胸の中で、少し早い心臓の鼓動を玲は聞き入る。その音はなぜか不思議なほど心を落ち着かせてくれた。
「オレが……止めてやる。変えてやる。だから……」
玲の体から緊張が解けるのが伝わったのか、背中に優しくまわされていた牧の腕の力が緩められる。
あ、キスされる──
それがわかっていても玲は身じろぎもしなかった。「変えてやる」という牧の言葉が頭の中を反芻していた。
牧の唇が自分に重なる。優しく押し当てられる。何度も唇が触れ合うのを感じる。
やがて わずかに開いていた隙から、牧の舌が入り込み、玲の舌先を探し当てると静かに絡められた。
自分のキスを拒みもしなければ 受け入れるでもない玲に牧は深く口づける。
唇を離した。一度大きく肩で息をする。玲も深く息をつき、うつむく。再度近づいてくる牧に、初めてためらいを見せるが、顎をとられ再び優しく包まれた。
なぜ? なんて考える余裕は玲になかった。今は 目の前の牧しか目に入らない。なされるがままだった玲に変化が見られる。牧に応え始める──
牧のその広い肩に手をかけ、角度を変えて何度もキスを交わした。次第にそれは激しいものになってくる。離れるたびに深く呼吸した。そうでもしないと苦しいほど牧に塞がれる。
「玲……オレがいる」
そして牧がどういうつもりで言っているのかを問いかけることが出来ないほど、隙間なく抱きしめられる。牧に包みこまれる。
「ひとりで抱え込むな……」
再びキスを落とされ、自然と体がのけぞるように上向くと、軽々と牧に抱き上げられた。