大学編 牧

□conte 06
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彼女をキレイだと思っていた。
心配で気に掛けていた。
その程度のはずだった。

*****


昨日の雷雨はあのあとすぐに去った。窓の外は何事もなかったかのように和やかな朝の空気に包まれていた。

背中に感じるあたたかい温もり、自分の髪をなでる大きな手にハッとして目覚めた。その懐かしい感覚に玲は思わず振り返り仰ぎ見る。違うとわかっているのに。
その行動は、鋭い牧には何を意味するかわかってしまうが、牧は何も言わなかった。玲を後ろから覆いながら 牧は「おはよう」と言った。

「大丈夫……か?」
「……はい」
「言っておくが、オレは……慰めや男の欲望で抱いたわけじゃない」

その声は低く響き、わずかなブレも感じさせない。玲はコクンと小さくうなずいた。

今もちゃんと覚えている。『玲ちゃん』と呼んでいた牧だが、昨夜、ベッドの中ではずっと『玲』と愛おしみ続けてくれていた。壊れものを扱うように優しい愛撫だった。
だからこそ、じゃあどうして……? なんて聞けない。玲もなりゆきで牧に身をまかせたつもりはない。かといって、明確に答えられない。なんでキスに応え、牧を受け入れたのか。

きっと自分が少しでも拒む素振りを見せたら、牧はすぐにやめたと思う。そこまでわかっていて、なぜ──

あらためてお互い何も身につけていないことに気づく。思わず毛布を引き寄せるが、牧にその手を止められ……
そのままベッドに押さえつけられ、カーテン越しの薄日のもとにさらされた。

胸元に残るいくつかの跡に、昨夜の生々しさがよみがえる。玲がふっと顔をそらした。

「いや……か?」
「…恥ずかしい……だけ」
「昨日、あんなことしておいて?」
「牧さん、意地悪……」

牧の顔が近づき、優しくキスを落とされた。
いやじゃない──


ベッドにつく肘で体を支え、腰をもちあげられると、後ろから牧が入ってきた。その圧迫感に両手でギュッとシーツを握りしめる。背が弓なりにしなり、そこに牧は手を這わせキスをした。その優しい感触に甘くしびれる。

繋がったまま向きを変えられ、抱き起こされると、薄明るい中で牧と目があった。玲の長い睫の奥の瞳が牧を見上げた。その熱を帯びた目に……

「そんな目をされると……止まらなくなる」

牧は困ったような笑みをうかべ、そして、何か言いかけた玲の唇を食らいつくように塞いだ。何も言うな、そんな牧からのメッセージだった。

牧によって玲の体が揺すぶられる。すがるように腕を回した牧の背中は広く、胸元からは牧の匂いがした。意識が遠のくような感覚。
もう何も考えられない──
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