大学編 牧

□conte 08
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彼女に聞こえただろうか。
それに答えてくれるだろうか……

*****


以前、F体大バスケ部OBの始めたスポーツバーに牧は皆で開店祝いに駆け付けたことがあった。その際、ふとしたことから藤真と親しいということがオーナーであるOBの耳に入り、今度連れてきてよと頼まれた。
しかも、諸星が玲は藤真の従妹で知り合いだと話してしまい、あのふたりが一緒に来てくれたらスゲーと話が盛り上がってしまう。
あの時は、まあそうだなと思い、近いうちにと返事をした。今となっては微妙すぎて、ズルズルと先延ばしにしてきたが──


「3人で……?」

玲は少し不安げな様子。

「あと神も行きたいって言ってただろう? だから4人だな」

本来だったら諸星も誘うのだろうが、今回、牧はそうしなかった。ややこしいことになりそうだから。

「気が進まなかったら、無理しなくていいぞ?」
「ううん、そんなことない。行っていいなら」

もう玲の家の前。会って食事をしたあと、牧が送ってきていた。交通量の多い通りから一本入ったところにあり、家路を急ぐ帰宅者がちらほら通り過ぎるだけ。

牧は玲の髪をなで、肩に手をおき、じゃあなとそのまま玲の腕に沿って手を離した。そのまま背を向けて、また軽く腕をあげた。

数メートルしたところで、駅の方向へ戻る牧とすれ違った女性がいた。彼女はちらっと牧を見る。首をかしげながら、マンションのエントランスに入っていくのは、玲の姉だった。



翌週、予定通り、4人でスポーツバーへ行くことになった。牧とこういうことになってから、初めて藤真たちを含めて会う。どうにもこうにも落ち着かない。

待ち合わせ場所に最初に着いたのは自分だった。藤真と神が一緒にやってきた。
これで牧が来たらどんな顔をしたらいいのか……今日は牧とどういう距離感で接すればいいのか、そんなことばかり考えてしまう。今まで通り、だがその今までがどうだったのか、なぜか思い出せない。
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